血漿中P-tau217(plasma tau phosphorylated at threonine 217)は、アルツハイマー病(AD)と他の神経変性疾患を高い精度で識別できることが明らかにされた。従来の血漿中P-tau181やニューロフィラメント軽鎖(NfL)および画像診断のMRIよりもその精度は有意に高かったが、一方で脳脊髄液(CSF)・P-tau217、CSF・P-tau181やtau-PETとは有意差は示されなかった。スウェーデン・ルンド大学のSebastian Palmqvist氏らが、3つのコホート、被験者総数1,402例を対象に行った試験で明らかにしたもので、ADの診断検査について、現行のアプローチでは限界があると指摘されていることから、著者は「さらなる検討を行い、このアッセイを最適化し、非選択の多様な集団で検証を行い、臨床ケアにおける潜在的な役割を確立する必要がある」と述べている。JAMA誌オンライン版2020年7月28日号掲載の報告。
血漿中P-tau217のAD識別能を3つの断面研究を基に検証
研究グループは、3つの断面研究について分析を行い、血漿中P-tau217のAD識別能について検証した。対象としたコホートは、アリゾナ州ベースの神経病理学コホート(コホート1:2007年5月~2019年1月、AD群34例、非AD群47例)、スウェーデン「BioFINDER-2」コホート(コホート2:2017年4月~2019年9月、非認知機能障害301例、臨床的に診断された軽度認知機能障害[MCI]178例、アルツハイマー型認知症121例、神経変性障害99例)、コロンビア常染色体優性アルツハイマー病レジストリ(コホート3:2013年12月~2017年2月、
PSEN1 E280A遺伝子変異保有者365例、非保有者257例)。
主要アウトカムは、血漿中P-tau217のAD識別精度(臨床的または神経病理学的診断による)、副次アウトカムは、タウの病理(神経病理学的またはPETにより確認)との関連だった。
PSEN1変異保有者の血漿中P-tau217値、MCI発症20年前にすでに上昇
被験者の平均年齢は、コホート1が83.5(SD 8.5)歳、2が69.1(10.3)歳、3が35.8(10.7)歳で、女性の割合はそれぞれ38%、51%、57%だった。
コホート1において、被験者存命中の血漿中P-tau217は、神経病理学的にADと非ADを高精度で識別し(曲線下面積[AUC]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.81~0.97)、血漿中P-tau181やNfLによる識別能に比べ、有意に精度が高かった(p<0.05)。
コホート2でも、血漿中P-tau217の臨床的ADとその他の神経変性疾患との識別精度は高かった(AUC:0.96、95%CI:0.93~0.98)。ただし血漿中P-tau217の識別精度は血漿中P-tau181や血漿中NfL、MRIよりも有意に高かったものの(AUCの範囲:0.50~0.81、p<0.001)、CSF・P-tau217、CSF・P-tau181、tau-PETとは有意差はなかった(0.90~0.99、p>0.15)。
コホート3では、おおよそ25歳以上の
PSEN1変異保有者の血漿中P-tau217の値は、非保有者と比べて高く、MCIを発症する約20年前にすでに漿中P-tau217の増加が始まっていた。
コホート1において、血漿中P-tau217値のβアミロイドプラーク有無による相関がみられ、あり群では有意な関連性がみられたが(Spearmanのp=0.64、p<0.001)、なし群では関連性はみられなかった(Spearmanのp=0.15、p=0.33)。
コホート2では、血漿中P-tau217はtau-PETの異常と正常の識別能が高く(AUC:0.93、95%CI:0.91~0.96)、血漿中P-tau181や血漿中NfL、CSF・P-tau181、CSF・Aβ42:Aβ40比、MRIよりも精度が高かったが(AUC範囲:0.67~0.90、p<0.05)、CSF・P-tau217とは有意差はなかった(AUC:0.96、p=0.22)。
(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)