直接的経皮的冠動脈インターベンション(Primary PCI)は、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者の治療において中心的な役割を果たし、「症状出現」や「来院」からバルーン拡張までを短時間で行うことが米国や欧州のガイドラインで推奨されている。しかし、これまで、「来院」からの時間の短縮化に関しては、否定的な結果も報告されてきた。
今回、わが国の大規模コホート研究CREDO-Kyoto AMI investigatorsから、PCIを施行したST上昇型心筋梗塞(STEMI)例において、「症状出現」から初回バルーン拡張までの短時間化は、3年臨床転帰を良くするが、「来院」から初回バルーン拡張までの短時間化による利益は、「症状出現」からの時間が短い患者に限られることが、報告された。研究グループは、臨床転帰を改善するためには、「症状出現」からバルーン拡張までの短時間化が推奨されると結論した。BMJ誌オンライン版2012年5月23日掲載の報告。
対象は、わが国の3次救急病院26施設で治療された症状発現24時間以内にPrimary PCIを施行したSTEMI 3,391例とした。主要エンドポイントは、死亡、慢性心不全の複合エンドポイントに設定された。
主な結果は以下のとおり。
・「症状出現」から初回バルーン拡張までの時間で比較すると、バルーン拡張までの時間が3時間未満の患者は、3時間以上の患者と比較して、死亡とうっ血性心不全の複合エンドポイントが有意に低かった〔相対リスク減少29.7%、13.5%(123/964) vs 19.2%(429/2,427)、P <0.001〕。
・交絡因子の調整後、「症状出現」から初回バルーン拡張までの短時間化は、独立したリスク低下因子であった(補正ハザード比0.70、95%信頼区間:0.56~0.88、P = 0.002)。
・「来院」から初回バルーン拡張までの時間で比較すると、バルーン拡張までの時間が90分以下の患者は、90分超の患者と比較して、死亡とうっ血性心不全の複合エンドポイントで有意な差が認められなかった。〔相対リスク減少9.2%、16.7%(270/1,671) vs 18.4%(282/1,720)、P=0.54〕。
・交絡因子の調整後、「来院」から初回バルーン拡張までを短時間で達成した群と長時間で達成した群では、複合エンドポイントのリスクに有意な差は認められなかった(補正ハザード比0.98、95%信頼区間:0.78~1.24、P = 0.87)。
・『「来院」から初回バルーン拡張までの時間が90分以下』の症例において、「症状出現」からバルーン拡張までの時間が2時間以内の群では、死亡とうっ血性心不全の発現を抑制させたが〔相対リスク減少 34.3%、11.9% (74/883) vs 18.1% (147/655)、 P=0.01〕、2時間超の群では、抑制を認めなかった〔相対リスク減少 -5.3%、19.7% (196/788) vs 18.7% (135/1,065)、 P=0.44〕。
・『「来院」から初回バルーン拡張までの短時間化』は、症状出現から早期の患者であれば、死亡とうっ血性心不全の独立したリスク低下因子であった(補正ハザード比:0.58, 95%信頼区間:0.38~0.87、 P=0.009)。
(ケアネット 鈴木 渉)