CLEAR!ジャーナル四天王|page:54

発症時年齢は1型糖尿病患者の心血管疾患リスクに関連する(解説:住谷哲氏)-917

1型糖尿病患者の動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクが2型糖尿病と同様に増加することは、本論文の著者らによってスウェーデンの1型糖尿病レジストリを用いて詳細に検討されて報告された。今回、著者らは1型糖尿病の発症時年齢とASCVDとの関連を同じレジストリを用いて解析した。その結果、発症時の年齢は糖尿病罹病期間を調整した後も、ASCVDリスクと有意に関連することが明らかにされた。

やはり優れたアスピリン!(解説:後藤信哉氏)-915

心筋梗塞後などの2次予防におけるアスピリンの有効性、安全性は確立されている。血栓イベントリスクの低い1次予防の症例群一般では、アスピリンのメリットはデメリットに勝るとはいえない。しかし、1次予防の症例群でもアスピリンの服用による心血管イベントリスクの低減効果は確立されている。多忙な医師は心血管イベントリスクも高いので、アスピリン服薬による心血管死亡率の低減効果が注目された時代もあった。

EBMの威力を痛感させたGLOBAL LEADERS試験(解説:後藤信哉氏)-914

ステント留置後の血栓性閉塞にはアスピリン・チクロピジン併用療法が画期的効果を示した。その後、多くの抗血小板薬が冠動脈インターベンション、急性冠症候群を対象として開発された。血栓イベントを恐れるあまり、欧米では大容量の抗血小板薬が使用され、出血イベントが増えた。その結果、抗血小板薬の早期中止を求めて「必要期間短縮」を目指すランダム化比較試験が計画された。本研究でも12ヵ月のアスピリン・P2Y12受容体阻害薬(クロピドグレルまたはチカグレロル)を標準治療として、アスピリン・チカグレロル1ヵ月使用後、チカグレロル単剤にするプロトコールと比較された。実臨床に近い試験としてエンドポイントは冠動脈の閉塞を反映するQ波性心筋梗塞と総死亡とされた。

成人の潜在性結核感染症に対するINH、RFPの比較試験(解説:吉田敦氏)-916

潜在性結核感染症(LTBI)に対する治療は、イソニアジドの単剤投与(6~9ヵ月)が第1選択となる。しかしながら小生も自ら経験があるが、これだけ長い期間内服のアドヒアランスを保つのは容易ではなく、さらに肝障害のリスクもある。これまで他剤についても多くの検討が行われてきたが、今回イソニアジド9ヵ月(INH、5mg/kg/日、最大300mg/日)とリファンピシン4ヵ月(RFP、10mg/kg/日、最大600mg/日)のランダム化オープンラベル比較試験が9ヵ国で行われ、その結果が発表された。

成人のインフルエンザに対するバロキサビル マルボキシルの効果(解説:吉田敦氏)-913

本邦で2018年2月23日に製造承認された新規の抗インフルエンザ薬、バロキサビル マルボキシル(商品名:ゾフルーザ錠)に関する2つの二重盲検ランダム化比較試験の結果がNEJM誌上に発表された。本剤はウイルスのポリメラーゼを構成する3つのサブユニットのうち、polymerase acidic protein(PA)を選択的に阻害するプロドラッグであり、エンドヌクレアーゼ阻害薬に分類される。A型、B型いずれにも効果を示し、動物実験では肺内のウイルス量を早期に減少させること、さらに人体内では長い半減期を有する(49~91時間)ことが判明していた。

末梢静脈カテーテル留置は世界中で毎年20億回も行われている(解説:中澤達氏)-911

この論文を読んで、早朝7時の病棟を思い出した。同じ経験をされている方々も多いと思うが、朝食前の採血と末梢ライン留置は研修医の仕事だった。容易に静脈が確認できる患者さんでは失敗はしなかったが、静脈が表面から見えないときは緊張した。先方もこちらが医師1年生であることは認識しているのだから、失敗してsecond tryともなると、気まずい雰囲気にならないようなコミュニケーションが必須だった。手技を習得するというより、コミュニケーション能力の向上のためのトレーニングと思っていたほどだ。それは、手技時間だけで構築されるものではなく、日々の回診や処置や雑談から(信用・信頼、本当だろうか?)獲得されていたのだ。

BRCA変異乳がんにおいてPARP阻害薬talazoparibはPFSを延長する−EMBRACA試験(解説:矢形寛氏)-910

PARP阻害薬であるオラパリブは本邦でもすでにBRCA変異乳がんで保険適応となっている。talazoparibは今のところ最も強力なPARP阻害薬であり、臨床試験の結果が期待されていた。PFSは標準治療の5.6ヵ月に比べ、talazoparib群で8.6ヵ月であり、有効ではあるもののオラパリブを超えるような大きな改善ではなかった。

先発配合剤の承認は医療費削減に逆行しているのではないか(解説:折笠秀樹氏)-909

本邦の医療用医薬品の中で、後発医薬品の数量ベースのシェアは70%と言われている。ちなみに、米国での同シェアは90%を超えている。売上ベースのシェアで見ると、30%より少し高い程度のようである。数量的には70%を占めていても、単価が先発医薬品に比べて安いのでこのようになるのだろう。

“酒は百薬の長されど万病の元”という故事は飲酒の健康への利害を端的に語っており、認知症も例外にあらず!(解説:島田俊夫氏)-908

高齢者の認知症が大きな社会問題としてクローズアップされている。2018年8月1日にBMJ誌に掲載されたフランス・パリ・サクレー大学のSeverine Sabia氏らの「Whitehall IIコホート研究」の結果は、飲酒と認知症の関連を取り上げた時宜にかなう論文で興味深く、この小稿で取り上げた。これまで過度な飲酒が身体に悪影響を及ぼすことは広く周知されている。一般的に適量の飲酒は認知症に関して低リスク1)と考えられてきたが、詳細については不明な点も多い。

外来での高齢者に対する抗菌薬処方(解説:吉田敦氏)-907

高齢者において、抗菌薬の処方が過剰となり、それが薬剤耐性(AMR)に結びついているという指摘は以前から存在した。米国においても、抗菌薬適正使用およびAMRへの取り組みから抗菌薬の総使用量は減少し始めていたが、高齢者における使用量の変化については不明な部分が多かった。今回、高齢者の98%が加入可能な公的保険である米国メディケアにおいて、高齢者の外来での抗菌薬処方と、各診断名に対して適切な抗菌薬が使用されていたかどうかを観察研究として調査した。

尿崩症の診断におけるコペプチンの測定(解説:吉岡成人氏)-906

中枢性尿崩症は、バゾプレッシン(arginine vasopressin:AVP)の分泌障害によって腎臓の集合管における水の再吸収が障害され、多尿をきたす疾患である。検査所見では、尿浸透圧/血漿浸透圧比は1未満であり、血漿AVP濃度は血漿浸透圧に比較して低値となる。水制限試験、高張食塩水負荷試験、ピトレッシン(DDAVP)負荷試験などの負荷試験を行い、最終的な診断を下すこととなる。

心臓手術で「エキストラ」にできること(解説:香坂俊氏)-905

床屋に行ったりすると、最後に整髪料を付けてくれたり、あるいはジェル等を使って髪形を整えてくれたりすることがある。たまに肩や首をマッサージしてくれることもある。筆者は顔のパックを試していきませんか、と言われたこともある(断った)。ケースバイケースだが、こうした【エキストラなサービス】は概して嬉しいものである。

進行肝細胞がんに対する多標的チロシンキナーゼ阻害薬療法(解説:中村郁夫氏)-903

本論文は、既治療の進行肝細胞がん(HCC)症例に対する、cabozantinibの治療効果および安全性に関するランダム化・二重盲検・多施設で行われた第III相試験の結果の報告である。対象は、ソラフェニブ(商品名:ネクサバール)による治療を受けた進行肝細胞がん症例で、さらに、少なくとも1回のHCCに対する全身的治療を受けた後に進行を呈した症例(HCCに対する全身的治療は2回まで)とした。707例を無作為に2対1に割り付けて、実薬群はcabozantinib(60mg/日)の内服を行い、経過をフォローした。結果として、全生存期間(OS)は、cabozantinib投与群10.2ヵ月、プラセボ群8.0ヵ月と有意な延長(p=0.005)を認めた。また、副次評価項目である、無増悪生存期間(PFS)は、cabozantinib投与群5.2ヵ月、プラセボ群1.9ヵ月と有意な延長(p<0.001)を認めた。しかし、一方で、Grade3/4の有害事象の頻度がcabozantinib投与群では68%であり、プラセボ群の36%と比較して頻度が2倍近いことも報告された。頻度の高い有害事象は、手足症候群、高血圧、肝機能障害、疲労、下痢などであった。

新たな結核菌ワクチンの第II相試験(解説:小金丸博氏)-901

新たに開発中の結核菌に対するワクチン「H4:IC31」の第II相試験の結果が発表された。「H4:IC31」は、Toll様受容体9を介してシグナル伝達する組み換え融合タンパク質(H4)とIC31アジュバントからなるサブユニットワクチンである。このワクチンはインターフェロンγ放出試験(QFT)と交差反応を示さないマイコバクテリア抗原(Ag85BとTB10.4)を含んでいる。

2017ACC/AHA高血圧GLの定義にすると、日本の高血圧者は何人増えるか?(解説:有馬久富氏)-902

2017ACC/AHA高血圧ガイドラインでは、高血圧症の定義が、現行の140/90mmHg以上から130/80mmHg以上に改訂された。この新しい定義の米国・中国における高血圧有病率および数に及ぼす影響が、BMJに報告された。その結果、米国の45~75歳男女において、高血圧有病率は49.7%から63.0%まで増加し(絶対増加13%、相対増加27%)、高血圧者の数は1,480万人増加すると推測された。中国における増加はさらに顕著であり、45~75歳男女における高血圧有病率は38%から55%まで増加し(絶対増加17%、相対増加45%)、高血圧者の数は8,270万人増加すると推測された。

メトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分な患者へのSU薬の上乗せは心血管イベント・総死亡のリスクを増加しない(解説:住谷哲氏)-900

低血糖と体重増加のリスクはすべてのSU薬に共通であるが、SU薬が2型糖尿病患者の心血管イベントおよび総死亡のリスクを増加させるか否かは現在でも議論が続いている。発端は1970年に発表されたUGDP(University Group Diabetes Program)において、SU薬であるトルブタミド投与群で総死亡リスクが増加したことにある。その後の研究でこの疑念は研究デザイン上の不備によることが明らかとなり、トルブタミドと総死亡リスク増加との間には関連がないことが証明された。しかし安全性を重視するFDAはUGDPの結果に基づいて、現在においてもすべてのSU薬の添付文書に“increased risk of cardiovascular mortality”と記載している。

“ウエアラブル活動モニターは有用か?”は仮説検証されていない(解説:中澤達氏)-899

末梢動脈疾患(PAD)の患者を無作為に2群に分け、一方は4回にわたり、医療センターでコーチによる歩行訓練と目標設定などに関する週1回の指導を受けた。その後、ウエアラブル活動モニターを装着して家庭で歩行訓練を行い、その間、週1回~月1回の頻度で電話による指導を受けた。もう一方の群には、活動モニターの使用や医療センターにおける指導、コーチによる電話指導などは行わない、通常のケアのみを行った。

研究方法に疑問(解説:野間重孝氏)-898

この問題を考える場合、2つの方向があることをまず考えておく必要がある。第1は、まずうつ病は冠動脈疾患(CAD)のリスクファクターであるのか否かという問題。そして、もしそうであったとしたなら、それは予後規定因子としてどのくらいの重みを持っているのか。第2は、急性冠症候群(ACS)の患者はどの程度の割合でうつ病を発症するのか。そして、うつ病を発症することが、その予後にどのような影響を与えるのかという問題の立て方である。つまり、両方向から問題が立てられるのである。ただ、ここで注意を促しておきたいのは、第1の問いが真であったとして、うつ病患者でCADに罹患したものを無作為に振り分けて、片方にうつ病の治療を続行し、もう片方にプラセボを投与するといった研究は倫理的に許されるものではなく、大規模な疫学研究の結果を待つか、結果として治療が行われたり行われなかったりしたretrospective studyのメタアナリシスを待つしかないということである。こういうところに臨床研究の限界がある。