CLEAR!ジャーナル四天王|page:54

ネットワークメタアナリシスの多用は薬剤間競争をあおっていないだろうか?(解説:折笠秀樹氏)-824

有用性比較研究(CERと略す)に火がついたのは、オバマ大統領がオバマケアで提唱したことにあった。今から5年ほど前の話である。特定の薬剤が有用かどうかではなく、同様の薬剤同士を比較する必要性を説いた。予想されたように、これにより薬剤同士の競争を招いた。現在では、抗凝固薬を筆頭に、CER論文が数多く出版されている。そこではほとんどでネットワークメタアナリシスが使われている。蛇足だが、CERで次によく使われるのは、データベースを用いたプロペンシティマッチング解析である。薬剤のマーケティングを通じた加熱競争をみていると、ちょっと技術の悪用に近い感を抱く。

抗うつ薬は効果があるのか?(解説:岡村毅氏)-822

抗うつ薬に関するネットワークアナリシスである。臨床的には納得できる点が多い。「良薬口に苦し」とはよく言ったもので、いわゆる三環系抗うつ薬であるアミトリプチリンは効果が大きいが、抗コリン作用(口渇、眠気、便秘、不整脈等)が強く、高齢社会においてはますます使いにくい。SSRIの登場によりうつ病の薬物治療が新時代を迎えたころ、華々しく登場したfluoxetineやパロキセチンは、やはりスタディ数が圧倒的に多い。バランスが良いのはセルトラリンやエスシタロプラムであるが、従来いわれていた知見と合致する。

トリプルセラピーは重症COPD患者の中等度以上の増悪を減らすことができるのか?(解説:山本寛 氏)-821

慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)、とくに重症のCOPDに対する治療は長時間作用性ムスカリン受容体拮抗薬(long-acting muscarinic antagonist:LAMA)の吸入、長時間作用性β2刺激薬(long-acting β2 agonist:LABA)の吸入を軸に、吸入ステロイド(inhaled corticosteroid:ICS)が上乗せされることが多かった。確かに重症COPDには気管支喘息の合併、いわゆるACO(Asthma and COPD Overlap)が多く、また、喘息を合併していない場合でも、好酸球性気道炎症は重症COPDで多く認められ、ICSが本質的に有用な患者は存在する。しかし、十分な証拠もなくICSを追加してしまう場合も多いだろう。ICS/LABAが第1選択であると誤解されていることもあるようだ。一方、COPDに対してICSを上乗せすると肺炎の合併が多くなることは従来から指摘されていて、最新2017年のGOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)では、一旦追加したICSを中止することも選択肢の1つとして提示されている。

整形外科術後もアスピリンでいいの?(解説:後藤信哉氏)-820

筆者は薬剤の副作用の懸念が強い臨床医として、リスクの高い2次予防の重篤な血栓症以外では抗凝固薬を使うことはほとんどない。逆に筆者が抗凝固薬を使用している症例はリスクの高い症例なので、生涯抗凝固薬を使用する覚悟で使用している。アスピリンなどの抗血小板薬は、血栓イベント予防効果も少ないが、出血も少ないので、投与開始の壁は少し低い。

脳灌流画像による選択により、発症後6~16時間の脳梗塞にも血栓除去術が有用(中川原譲二氏)-818

血栓除去術は、現在、発症から6時間以内に治療される適格な脳梗塞患者に推奨されている。米国・スタンフォード大学脳卒中センターのGregory W. Albers氏らが行った「DEFUSE3試験」は、発症までは元気で、梗塞に陥っていない虚血脳組織が残存する患者を対象として、発症後6~16時間の血栓除去術の有効性について検討した多施設共同無作為化非盲検試験(アウトカムは盲検評価)である。対象患者は、中大脳動脈近位部または内頸動脈の閉塞を有し、CTやMRI灌流画像で、初期の梗塞容積70mL未満、虚血/梗塞容積比1.8以上を適格とし、血管内治療(血栓除去術)+標準的薬物療法併用(血管内治療群)、または標準的薬物療法単独(薬物療法群)に無作為に割り付けられた。主要アウトカムは、90日後の修正Rankinスケール(mRS)の通常スコア(範囲:0~6、高スコアほど障害の程度が大きい)とされた。

Real World Evidenceからみたカナグリフロジンの有用性(解説:吉岡成人 氏)-819

ADA(American Diabetes Association)のガイドラインでは心血管リスクを持つ2型糖尿病患者に、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンやカナグリフロジンの積極的な使用を推奨している。その根拠となる臨床試験は、EMPA-REG OUTCOME試験およびCANVASプログラムである。これらの臨床試験における主要評価項目は心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合イベントの発生率であり、対象となった患者も心血管疾患のハイリスクグループであった。今回紹介するのは、米国における民間の医療データベースを基に、2型糖尿病患者における投与薬剤と心血管イベントについて検討したReal World Evidenceとしてのデータである。

データ共有を宣言するも実が伴っていなかった(解説:折笠秀樹氏)-817

データ共有の方針(Data sharing policy)をとると、他の研究者から依頼があれば著者は生データを提供しなければならない。BMJとPLOS Medicine誌は、早くからデータ共有を打ち出してきた臨床雑誌である。この方針が打ち出された以降(2013~16年)に出版された、37件のランダム化比較試験(RCT)を調査対象とした。これらの雑誌には臨床試験よりも観察研究が載りがちであるが、4年間でRCTが37件というのはちょっと少ないかと思われた。

肥満遺伝リスクを考慮した肥満治療が斬新な治療効果を生み出す可能性に期待!(解説:島田俊夫氏)-815

肥満は単なる見栄えが悪いといった外見上の問題ではなく、肥満そのものが病気であるとの認識を持つことが肥満治療上重要である。とくに内臓脂肪蓄積は、肥満に伴い多くの悪玉アディポサイトカインを分泌することで、炎症を惹起し万病を生み出している。肥満は健康の敵であることは言うまでもないが、肥満をいかに治療するかは深刻な問題である。一方で肥満は過食が大きな要因の1つではあるが、体質によって太りやすい人、太りにくい人がいることも周知の事実である。BMJ誌の2018年1月10日号に掲載された米国テューレン大学のTiange Wang氏らによる論文は、肥満と遺伝リスクとの関連性ならびに健康食順守による肥満治療効果を併せ検証した興味深い研究であり、私見をコメントする。

重炭酸Naとアセチルシステインに造影剤腎症の予防効果なし(中川原譲二氏)-814

血管造影関連の造影剤腎症を予防する目的で、欧米では、重炭酸Naの静脈投与やアセチルシステインの経口投与が行われているが、「PRESERVE」試験では、血管造影を受ける腎合併症発症リスクが高い患者において、これらの薬剤投与はいずれも、死亡や透析、血管造影に関連した急性腎障害の予防に寄与しないことが示された(NEJM. 2017 Nov 12.)。

完全禁煙のすすめ(解説:有馬 久富 氏)-812

昨年Lancetに世界の喫煙率が報告され、日本における喫煙率が高所得国の中で2番目に高いという不名誉な結果が得られたことは記憶に新しい(世界および日本において喫煙対策は急務である)。日本においても分煙あるいは禁煙する場所が増えてきたため、飲酒時などの限られた機会にのみ喫煙する機会喫煙者や、減煙を実施している少量喫煙者も増えているのではないかと推測される。しかし、少量の喫煙が、どの程度健康に悪影響を与えるかについては明らかにされていなかった。

敗血症性ショックに対するグルココルチコイドの投与:長い議論の転機となるか(解説:吉田 敦 氏)-813

敗血症性ショックにおいてグルココルチコイドの投与が有効であるかについては、長い間議論が続いてきた。グルココルチコイドの種類・量・投与法のみならず、何をもって有効とするかなど、介入と評価法についてもばらつきがあり、一方でこのような重症病態での副腎機能の評価について限界があったことも根底にある。今回大規模なランダム化比較試験が行われ、その結果が報告された。

NOACで頭蓋内出血は少なくなる?(解説:後藤信哉氏)-810

各種NOACの第III相ランダム化比較試験にて、INR 2-3を標的としたワルファリン群に比較してNOAC群にて頭蓋内出血が少ないとされても、筆者の心には響かなかった。INR 1.9であればワルファリンを増量し、INR 2.9であってもワルファリンを減量しないような治療は、自らの日常診療と大きく乖離していたためである。また、NOAC登場前の観察研究にて、日本も世界もワルファリン使用時の頭蓋内出血発現率は0.2%程度とされていたので、その3倍も頭蓋内出血が起こることを示した第III相試験のメッセージは「INR 2-3を標的としたワルファリン治療は頭蓋内出血を増やす」のみであった。

新薬が出ない世界で(2)(解説:岡村毅氏)-809

アルツハイマー型認知症に対する疾患修飾薬(根本治療薬)であるアミロイド抗体(solanezumab)が、軽度のアルツハイマー型認知症の患者さんに対しても効果がなかったという報告である。すでに軽度から中程度においては効果がないことが示されていたが(EXPEDITION 1&2、Doody RS, et al. N Engl J Med. 2014;370:311-321. PMID: 24450890)、この時、軽度の方に対しては効果があるという希望が示されていた。そこで今回の研究(EXPEDITION 3)が遂行されたのだが、残念ながら希望はかなわなかった。

乳がん検診と治療が及ぼす死亡率減少への影響をサブタイプ別に検証(解説:矢形寛氏)-807

Cancer Intervention and Surveillance Network(CISNET)は、国立がん研究所がスポンサーとなっている組織であり、がんの予防、スクリーニング、治療が、がんの頻度や死亡率に及ぼす影響をよりよく理解するためのモデルなどを提供している。2005年のNEJMでは、CISNETモデル用いた検討により、死亡率低下のうち46%がスクリーニング、54%が治療による影響と評価されていた。

糖尿病になりやすい民族…(解説:吉岡成人 氏)-806

糖尿病の発症リスクには人種間差があり、コホート研究では、白人に比べアジア人やヒスパニック、黒人で糖尿病の発症率が高いことが知られている。また、中年女性を対象とした米国におけるNurses’ Health Study(NHS)では、18歳以降の5kgの体重増加に伴う糖尿病の発症リスク(相対リスク)について、白人が1.37であるのに対し、黒人1.38、ヒスパニック1.44、アジア人では1.84と、アジア人はわずかな体重増加でも糖尿病を発症しやすいことが報告されている(Shai I, et al. Diabetes Care. 2006;29:1585-1590.PMID: 16801583)。

人工知能と糖尿病診療の未来予想図(解説:住谷哲氏)-805

Googleの子会社であるGoogle DeepMindが開発した人工知能(Artificial Intelligence:AI)AlphaGoが、世界最強の囲碁棋士とされる柯潔を3局全勝で破ったのは昨年(2017年)である。AlphaGoはその前年に、かつての世界王者であったイ・セドルを4勝1敗で破っている。これがいかに衝撃的であったかは、『Nature』にAlphaGoの開発論文が掲載されたことからもよくわかる1)。このAlphaGoの基礎となった技術が、本論文でも用いられた深層学習(ディープラーニング:deep learning)である。深層学習とは、ヒトが自然に行うタスクをコンピュータに学習させる機械学習の手法の1つであり、AIの急速な発展を支える基礎技術である。深層学習はヒトのニューロンをモデルとした数理モデルであり、階層型ニューラルネットワークとも呼ばれる。階層型ニューラルネットワークのなかで、畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network:CNN)は、とくに画像認識に優れたシステムであり、前述のAlphaGoも本論文で用いられたディープラーニングシステム(DLS)も畳み込みニューラルネットワークを基礎に構成されている。