【GET!ザ・トレンド】脳神経細胞再生を現実にする(2)

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公開日:2015/03/02

近年の研究で、ヒトの脳にも“神経幹細胞”が存在し、新たな神経細胞を作っていることが証明された。

神経幹細胞を有効に活用することで脳神経を再生させる。この技術を活用した再生医薬品の1つが、サンバイオ株式会社(東京都 中央区)が開発するSB623である。このSB623、すでに米国での臨床試験も終了し、著しい効果を示しているという。今回は、米国で同剤の開発に当たるサンバイオ社 チーフメディカルオフィサー Damien Bates氏に最新情報を聞いた。

神経再生能力を高めた骨髄由来幹細胞

神経幹細胞の再生能力を活用し、治療法のない神経疾患の改善を目指した、新たな再生細胞医薬品の開発が進んでいる。その中で、実臨床での活用が現実味を帯びているのが、同社が開発するSB623である。

SB623は、成人の骨髄間質細胞から分離した細胞に、一時的に遺伝子(ヒトNotch1)を導入して、再生能力を高めた骨髄由来神経再生細胞である。この遺伝子を導入することで、幹細胞は組織再生に必要な蛋白質を生み出す細胞に変化する。細胞の再生といえば、移植した細胞自身が新たな細胞に置換していくcell replacementを想像するが、SB623は患者の神経栄養因子の分泌を促すtrophic effectにより組織の再生を促す。

再生のトリガーとして働く

SB623はどのように神経細胞を再生するのだろうか?

通常の脳では神経細胞の再生効率は非常に低い(脳神経細胞再生を現実にする(1)参照)。ここにSB623を移植すると、患者の脳は刺激され、成長因子や細胞外マトリックスなどの蛋白質を生み出す。成長因子は幹細胞の分裂・増殖や神経細胞への多様な分化、血管新生による細胞への栄養供給を促す。また、細胞外マトリックスは分裂した細胞の増殖基盤となり組織再生を促す。

神経幹細胞が存在しても脳の損傷部位には到達できない。しかし、SB623により生み出された成長因子や細胞外マトリックスが、神経幹細胞を梗塞部位へ到達させる。さらに、SB623が体内から消失した後も、内在性の幹細胞は長期間生存し、損傷の修復を助ける。

つまり、SB623は患者の細胞を刺激し、再生のトリガーとしての役割を担うのである。

    SB623 により神経幹細胞が脳の梗塞部位に到達するメカニズム「バイオブリッジ」
    (Damien Bates氏解説:0’50″)

    SB623投与例では、神経幹細胞が梗塞部位に到達している(サンバイオ社提供)

    米国で先行する臨床試験

    SB623は、米国においてすでにPhaseI/IIaの臨床試験を完了した。最後の患者のフォローアップも本年(2015年)8月に完了する予定である。

    試験対象は、発症6ヵ月以上経過した慢性の脳梗塞患者18例であり、いずれも身体機能障害を有しながら、もはや治療法がない患者である。これら患者の脳の梗塞部位にSB623を外科的に注入し、6ヵ月後の患者の神経系機能の改善を分析している。試験結果は非常に有望だという。

    複数の神経学的指標による機能改善の評価においても、そのほとんどでベースラインから統計学的に有意な改善を認めている。腕も上げられず、床から起き上がることもできなかった患者が動けるようになるなど、臨床的にも著しい改善を示しているという。また、1回投与でありながら、効果は持続性であり、投与24ヵ月後も改善は持続している。さらに、安全性の問題が認められなかったことも非常に重要であるとBates氏は言う。

    SB623によるFugl-Meyer脳卒中後感覚運動機能回復度評価の推移。
    投与6ヵ月時点で有意に改善、24ヵ月後も改善は持続している。(サンバイオ社提供)

    治療手段がない神経疾患への救世主となるか

    脳卒中は身体機能障害の最も重要な原因であるが、いまだ効果的な治療法はなく、社会的にも医学的にも大きな問題である。SB623は、これら治療法がない脳卒中患者の神経細胞を再生させる能力が期待できる薬剤である。

    また、脳卒中だけでなく、神経栄養因子が治療に貢献しうる、外傷性脳損傷や加齢黄斑変性症といった神経疾患にも適用できる可能性がある、とBates氏は述べた。

      Damian Bates氏からのメッセージ:1’50″

      なぜ米国での開発を選んだのか?

      SB623に関する技術は日本発であり、開発者であるサンバイオ社も日本企業である。しかし、なぜ米国での開発を選択したのか? サンバイオ社共同代表の森敬太氏に聞いた。

      SB623の治験を開始した2011年当時、日本には再生医療分野を積極的に推進するための土壌が整っていなかった。一方、米国は再生細胞薬などの新規治療法に対して非常に積極的にあり、経験豊富で優秀な研究者も確保しやすい。また、グローバルな展開も行いやすい国であった。このような背景から米国での開発をスタートさせたという。

      本邦においても、昨年(2014年)11月の薬事法改正で、再生医療分野の新規開発や参入が格段にスムーズになってきた。SB623は、2009年に帝人株式会社との間で脳卒中治療薬としての専用実施権許諾契約を締結しており、米国での臨床試験の良好な結果も相まって、今後の日本国内での活用が期待されている。

      SB623臨床試験の結果:スタンフォード大学 教授 Gary Steinberg氏インタビュー(サンバイオ社ホームページより)