最近の人工妊娠中絶の世界的な傾向として、1995年以降に観察された中絶率が実質的に低下した状態が、現在まで継続しているものの、危険な中絶は増加していることが、米国・Guttmacher研究所のGilda Sedgh氏らの調査で明らかとなった。妊産婦の健康増進(ミレニアム開発目標5)や家族計画の利用状況を評価するには、妊娠中絶の発生率やその傾向に関するデータが必要となる。また、中絶を取り巻く議論の一つに、中絶を制限する法律が、果たして女性を中絶から救出し得るかという問題がある。Lancet誌2012年2月18日号(オンライン版2012年1月19日号)掲載の報告。
1995~2008年の人工妊娠中絶の世界的な傾向を調査
研究グループは、1995~2008年の人工妊娠中絶の世界的な傾向について調査した。「危険な中絶」は標準的なWHOの定義で判定し、各国の公式統計や調査データに基づいて安全な中絶の推定値を算出した。危険な中絶は、主に公表された試験結果、病院記録、女性を対象とした調査の情報に基づいて推算した。
データが誤っていたり、不完全な場合や古い場合には、必要に応じて付加的な情報源などを利用して修正や予測を行った。1995年、2003年、2008年に同じ方法で算出された数値を用いて中絶の傾向を評価した。線形回帰モデルで、中絶の法的な位置づけと2008年の世界各地の中絶率の関連について解析した。
進歩的な中絶法を擁する地域で中絶率が有意に低い
15~44歳の女性1,000人当たりの中絶件数は、1995年の35件から減少期に入り、2003年は29件、2008年は28件と世界的に安定していた。中絶率の年間変化率の平均値は、1995~2003年が約2.4%、2003~2008年は0.3%と小さかった。
1995年の世界の人工妊娠中絶の44%が危険な中絶であったのに対し、2008年は49%に上昇していた。2008年は、妊娠5件当たり約1件の頻度で中絶が行われていた。中絶率は、進歩的な中絶法を擁する地域で有意に低かった(p<0.05)。
著者は、「1995年以降に観察された中絶率が実質的に低下した状態が、現在まで継続しており、危険な中絶は増加していた。中絶を制限する法律が中絶率の低下には結びつかないことが示された」とまとめ、「家族計画サービスや安全な中絶のためのケアへの出資など、望まない妊娠や危険な中絶を抑制するための対策が、『ミレニアム開発目標5』の達成に向けた重要なステップとなる」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)