認識されずに治療されなかった疾患 ~社交不安障害の新たな治療選択肢~

提供元:ケアネット

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公開日:2009/11/26

 



11月18日、丸ビルコンファレンススクエア(東京都千代田区)において「社交不安障害※(Social Anxiety Disorder:SAD)」についてのメディアセミナー(グラクソ・スミスクライン株式会社主催)(演者:山田和夫医師 東洋英和女学院大学 人間科学部 教授/和楽会横浜クリニック院長)が開催された。その内容をレポートする。

「結婚式のスピーチで汗びっしょりになってしまう」「高級レストランで手が震えてナイフを落としてしまう」一般的に「あがり症」と言われるこの症状も、場合によっては日常生活に多大な支障をきたすことがある。

SADとは?その症状




SADは、人前で話をするなど注目が集まる状況に強い不安や恐怖を感じ、日常生活に大きな支障を生じさせる疾患である。「不安に耐え切れず会社を辞めてしまう」「外出を避け引きこもるようになる」など重症化すると、その人の人生に大きな影響を与えかねない。手足の震え、動悸、吐き気、赤面といった自律神経症状が主症状のため、「性格的なもの」「自意識過剰」と周囲から判断されることも多い。

SADの診断とそこに潜む問題点




この病の診断はうつ病や認知症同様難しい。SADの診断基準として海外ではLSAS(Liebowitz Social Anxiety Scale)が広く使用されているが、国内で患者を診る場合、日本語版であるLSAS-Jを用いることが推奨されている。この総得点が高い場合にSADの可能性を疑う。患者の多くは10~20代で発症するので、診断時には「症状がいつから始まったか」についても確認することが大切だ。スコアが高く、さらに14歳頃など思春期からその症状が始まっている場合はSADの可能性がある。

このようにSAD患者の多くは、思春期からその症状に悩まされている。しかし来院するのは、ほとんどの場合社会人になってからだ。そのため、かなり症状が進行していることが多い。さらに病院へ行ってからもSADと診断されるまでに時間がかかる。何軒も病院をまわった後にようやく診断されるケースがほとんどだという。

「SADの診断は難しいが、疾患の可能性が思い浮かべば、患者の診断時期が早まり進行が抑えられる可能性が高くなる。だからまずはSADという疾患を認識することから始めてほしい」

演者の山田医師はそう呼びかけた。

広がるSAD治療の選択肢




前述のようにSADは診断が難しい病気だが、薬物療法が奏功しやすい疾患でもある。SADの発症機序自体は未だ明確ではないが、セロトニンの放出バランスが崩れることが原因のひとつと考えられている。そのため治療はSSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors)が奏功する可能性が高い。SSRIを投与することで、一旦放出されたセロトニンがもとの神経細胞に再取り込みされることを防ぎ、神経細胞間の遊離セロトニン量のバランスを保つことができるからだ。

2009年10月、SSRIであるパロキセチン(商品名:パキシル)が新たにSADの適応を取得した。国内で販売しているSSRIの中では2005年のフルボキサミン(商品名:デプロメール、ルボックス)に続き2剤目の適応だ。同剤のSADに対する有効性は国内外の臨床試験で確認されている。

SSRIを中心とした薬物治療により症状が改善すれば「人生が変わった」「生きがいを持てた」と感じる患者も増えるだろう。今回パロキセチンが適応を取得したことでSAD治療の選択肢はまたひとつ広がったといえる。

※2008年に日本精神神経学会において「社会不安障害」は「社交不安障害」に名称が改められた。パロキセチンは名称変更前の2007年に適応追加申請を行い「社会不安障害」として承認されている。

(ケアネット 佐藤寿美)