新たな分子標的薬の登場で腎細胞がん治療はどう変わるのか?

提供元:ケアネット

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公開日:2012/07/17

 



腎細胞がん治療において、現在わが国で発売されている分子標的薬は4剤あり、日本泌尿器科学会の腎癌診療ガイドライン2011年版では、1次治療ではMSKCCリスク分類別、2次治療では前治療別に薬剤が推奨されている。


そのなかで、新たな分子標的薬であるアキシチニブ(商品名:インライタ)が、2012年6月29日、根治切除不能または転移性の腎細胞がんの治療薬として承認された。今回、ファイザー株式会社によるプレスセミナーが7月11日に開催され、慶應義塾大学泌尿器科教授 大家基嗣氏と近畿大学泌尿器科教授 植村天受氏が、腎細胞がん治療における現状・課題、アキシチニブの特性や臨床成績、今後の展望などについて講演した。その内容をレポートする。

■標的部位が選択的かつ阻害活性が高いチロシンキナーゼ阻害薬




まず、腎細胞がん治療における現状と課題、アキシチニブの特性や臨床試験成績、使用時の注意について、大家基嗣氏が講演した。

腎細胞がんの罹患数は増加傾向にあり、わが国の年間罹患者数は約14,000人である。近年、健康診断における腹部超音波検査やほかの疾患での定期的CT検査によって、偶然発見されるケースも増えている。

現在、腎細胞がんに適応を持つ分子標的薬は、チロシンキナーゼ阻害薬のスニチニブ(商品名:スーテント)とソラフェニブ(同:ネクサバール)、mTOR阻害薬のテムシロリムス(同:トーリセル)とエベロリムス(同:アフィニトール)の4剤がある。これらの薬剤によって腎細胞がん患者の予後は改善されたとはいえ、長期生存率は依然として低く、また副作用の問題で長期継続投与ができないという課題が残っている。よって、臨床現場からは、より有効性が高く、より副作用の少ない薬剤が待ち望まれている。

今回承認されたアキシチニブは、チロシンキナーゼ阻害薬であり、標的部位がVEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3に選択的で、その阻害活性はほかの2剤に比べて非常に強いという特徴を持つ。国際共同第III相臨床試験(AXIS)では、1次治療に治療抵抗性を示した転移性腎細胞がん(淡明細胞がん)患者715例を対象に、アキシチニブ群とソラフェニブ群に無作為に割り付け、有効性および安全性を比較検討した。主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)中央値はアキシチニブ群が6.8ヵ月と、ソラフェニブ群4.7ヵ月に比べて有意に延長した(ハザード比0.664、p<0.0001)。また、日本人症例におけるサブ解析でも同様の有効性が認められ、転移性腎細胞がんの2次治療におけるアキシチニブの有用性が示された。

一方、副作用は、高血圧、蛋白尿が多いことが特徴である。しかしながら、国内第II相試験において、本剤の投与により拡張期血圧が一度でも90mmHg以上になった患者は、90mmHg未満であった患者に比べてPFSが有意に延長したことが認められている。この結果から、大家氏は「アキシチニブの場合、高血圧が認められる患者での効果が高い。血中濃度には個人差があり、高血圧になるくらいの量を投与しないと期待される効果が得にくいのではないか」と推察している。

■実際の投与における印象は?
 位置付けは?




次に、植村天受氏がアキシチニブ投与経験を交えて、腎細胞がん治療におけるアキシチニブの位置付けについて講演した。

海外では、すでにNCCNガイドラインにおいて、転移性の腎細胞がんの2次治療としてアキシチニブが推奨されている。一方、わが国では、2011年10月改訂の腎癌診療ガイドラインにおいて、アキシチニブは承認前にもかかわらず、サイトカイン療法無効例および分子標的治療無効例の進行腎がんに対して、推奨する治療の根拠として挙げられている。

腎細胞がん治療の現在の課題として、植村氏は、現在の分子標的薬は副作用のために長期継続が難しいことを挙げ、より副作用の少ない薬剤の必要性を強調した。今回承認されたアキシチニブについては、臨床試験における10症例の投与経験から、従来の薬剤に比べ副作用が少なく、たとえ発現してもコントロールがしやすい薬剤という印象を述べた。実際に、10症例のうち2例が4年以上の長期継続例で、これらの症例は副作用もなく効果が持続したとのことである。注意すべき副作用は高血圧と蛋白尿であり、命に関わる高血圧については、患者に自動血圧計で定期的に計測を依頼し、血圧が上昇したとの連絡があれば休薬を指示することでコントロールが可能とした。

最後に植村氏は、今後の腎細胞がん治療におけるアキシチニブの位置付けについて、腎細胞がんの2次治療における各薬剤の奏効率やPFSの試験成績から、アキシチニブが2次治療のファーストチョイスになるのではないかと述べた。さらに、現在進行中の1次治療における試験を紹介し、1次治療での有用性のエビデンスが揃って使用可能となるまでは、2次治療の薬剤として経験を積むことが重要である、と締めくくった。

(ケアネット 金沢 浩子)