7月26日、大阪で開催された第10回日本臨床腫瘍学会学術集会 公開講座にて、厚生労働省健康局がん対策・健康増進課 鷲見学氏は、過去5年間の「がん対策推進基本計画」のレビューを行うとともに、本年6月に改定された 新・がん対策推進基本計画 の特徴を紹介した。
「がん対策推進基本計画」策定後の主な成果
「がんの年齢調整死亡率(75歳以上)を10年間で20%減少」という目標については、5年間で8.8%減少した。未達であるが、残りの5年間で達成に向けて進めていきたい。
また、すべての地域がん診療連携拠点病院で放射線治療機器(リニアック)、外来化学療室が設置された。緩和ケアについても研修事業を行い、5年間で3万人以上が緩和ケアの研修を終了している。がん登録については、5年前は35道府県だったが、平成24年4月時点では45道府県で実施されており、24年末には全都道府県でがん登録の制度がスタートする予定である。
拠点病院の充実については、2次医療圏に原則1つということであったが、現在は全国で397ヵ所と増加している。また、この全施設で相談支援センターを設置し、相談員を配置している。
がん検診の受診率については、向上しているものの目標の5割には到達していない。しかしながら、子宮頸がんの30、40代、乳がんの40代、50代など一部の年代層、一部のがん種では5割近くまで上がってきている。
全体として、がん対策の枠組みが一定程度整備されてきており、今後5年間は質の向上が課題といえる。予算については、基本計画ができてから柱ができた。現在の予算額は約350億円であるが、厳しい財政状況のなか徐々に上昇してきている。
新・がん対策推進基本計画
このような中、6月に「がん対策推進基本計画」が新たに策定された。今回は、働く世代や小児へのがん対策の充実が新たに加わったのが特徴である。また、死亡者の減少、QOLの向上に加え、がんになっても安心に暮らせる社会の構築を新しい目標として掲げている。
いまや、がんの5年生存率は56.9%に向上した。すなわち、がんの治療を受けながら仕事をしなければならない患者さんが増えているわけである。この方たちは2015年には533万人になると推定されている。
一方で、がんの罹病により勤務者の34%が依願退職あるいは解雇され、自営業者の13%が廃業しているという事実がある。こうした中、職場の理解を深める、ハローワークと相談支援センターをつなぎ合わせるなどを課題としながら進めていきたいと考えている。
また、働く世代のなかでも、女性のがん死亡率の上昇が問題となっている。乳がん、子宮頸がんについては、諸外国では死亡率が下がっているにもかかわらず、日本では上昇している。きわめて深刻な状況である。無料クーポンの拡大など検診受診率の向上を図っていきたい。
小児がんについては、現在2,000例から2,500例が新たに発生している。しかし、1施設に症例数が集まらず、質の向上が図れない、新薬の治験体制ができていないなどの課題がある。そのため、小児がん拠点病院を新たに立ち上げるとしている。
緩和ケアについては、緩和ケアセンターを立ち上げ、緊急病床の確保を検討している。
このように、総括していろいろな視点で、複眼的に政策を進め、がんになっても安心して暮らせる社会の構築をしていくと、と鷲見氏は述べた。
(ケアネット 細田 雅之)