「インスリン療法のジレンマ」へのアプローチ

提供元:ケアネット

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公開日:2012/10/23

 

 2012年10月18日(木)、ノボ ノルディスク ファーマ株式会社開催のセミナーにて、東京大学大学院の門脇 孝氏(医学系研究科 糖尿病・代謝内科 教授)が、現状のインスリン治療における課題と、新規の持効型溶解インスリンアナログ製剤「トレシーバ」の臨床上の意義を語った。
門脇氏は、「新薬の登場により、低血糖リスクを高めることなく、一歩踏み込んだ糖尿病治療が可能になるのではないか」と講演で述べた。以下、内容を記載する。

セミナー前半では、東京都済生会中央病院の渥美 義仁氏(糖尿病臨床研究センター長)から「インスリン治療の臨床上のアンメットニーズ」が語られた。

インスリン療法のジレンマ

 インスリン療法では、「血糖値を正常に近づけると、患者さんは低血糖を不安に思い、逆に血糖値を高めに保とうとする」というジレンマが生じている。
実際、インスリン治療中の2型糖尿病患者を対象とした調査「GAPP2」で、日本人患者347例のうち、約70%が低血糖を経験しており、基礎インスリンのみで治療中の患者(81例)の約20%が、低血糖が起きた時「基礎インスリンを打たない」選択をしていると報告されている。

夜間低血糖が生産性を低下させる

 別のアンケート調査では、回答者の32%は夜間に非重症低血糖が起きたことで、会議を欠席したり、仕事の締め切りを守れなかった経験があると報告されており、夜間低血糖が生産性に影響を及ぼすことも示唆されている。

新薬「トレシーバ」への期待

 このように血糖を良好にコントロールでき、すべての低血糖・夜間低血糖のリスクの低い基礎インスリン製剤が必要とされる中、2012年9月、新規の持効型溶解インスリンアナログ製剤であるインスリン デグルデク「トレシーバ」が承認となった。

インスリン グラルギンとの差は?

 トレシーバは、BOT療法下でのインスリン グラルギンとの海外比較データで、同程度の血糖コントロールを達成し、夜間低血糖の発現率が36%と有意に少ないことが報告されている。また、有意差はないものの、すべての低血糖発現件数においてトレシーバで低下傾向が認められた。
日本人を含むアジア試験でも、グラルギンと同程度の血糖コントロールおよび低血糖発現率が示された。夜間低血糖発現率については、トレシーバで38%低下が認められたものの有意差はなかった。
アジア試験で夜間低血糖発現に有意差が認められなかった点について、門脇氏は「あくまで症例数の問題」とコメントした。また、今回の試験自体が、対照薬との血糖降下度の差をみるものではなく、同等のHbA1c値レベルを実現したうえで、低血糖の発現頻度や重症度を評価するというTreat-to-Target試験であることに触れたうえで、有意差は認められなかったものの両剤とも同程度のHbA1c値レベルという条件下において、トレシーバ群ですべての低血糖、夜間低血糖に低下傾向が認められたことは評価できる、とコメントし、講演を締めくくった。
 

まとめ

 低血糖にとくに不安感の強い傾向を示す患者さんには、「インスリン治療について十分教育を受けていない人」「1人暮らしの人」「不安感を感じやすい人」が挙げられるという。
新薬の登場により、このような患者さんの不安も軽減されていくのではないだろうか。

(ケアネット 佐藤寿美)