近年、ex vivoの血小板活性簡易測定キット(VerifyNow)が開発された。これにより、クロピドグレル不応例などに対するより効果的な抗血小板療法の実現が期待されたが、2つの無作為化試験(GARVITAS、TRIGGER-PCI)では、薬物溶出ステント(DES)留置後にVerifyNowを用いて抗血小板療法を調節・変更しても、有用性は従来のクロピドグレル療法と差がなかった。
同様に、3日のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて報告された無作為化試験ARCTICにおいても、VerifyNowを用いた抗血小板薬の用量調節は予後改善に結びつかなかった。ピティエ・サルペトリエール病院(フランス)のGilles Montalescot氏が報告した。
ARCTOC試験の対象は、DES留置が予定されている2,440例(ST上昇型心筋梗塞は除外)。アスピリン・クロピドグレル併用のうえ、VerifyNowで血小板活性をモニタする群とモニタなしの通常治療群に無作為化された。
「モニタ」群では、まずDES留置前にVeryfyNowにて血小板活性を評価し、 血小板活性(アスピリン、クロピドグレルそれぞれに対する残存血小板反応性)が高い場合、アスピリンは再ローディングか静注、クロピドグレルは再ローディングかプラスグレルへの切り替えとした。DES留置2週間~1か月後には再び血小板活性を測定し、血小板活性が高い場合、アスピリンは増量、クロピドグレルは75mg/日まで増量されていればプラスグレルへ変更することとした。ただし、チエノピリジン服用例で残存血小板活性が10%未満の場合は、クロピドグレル減量、あるいはプラスグレルからクロピドグレルへの変更を行った。
その結果、「モニター」群では血小板活性抑制の改善が見られた。すなわち、DES留置前、アスピリン服用例の7.6%、クロピドグレル服用例の35%において、血小板活性抑制は不十分だったが、DES留置2週間〜1か月後に残存血小板反応を認めた割合は、アスピリン群の3.9%、クロピドグレル群の15.6%だった。
ところが、このような血小板活性の抑制にもかかわらず、「モニタ」群の予後改善は認められなかった。すなわち、一次評価項目である「死亡、心筋梗塞、緊急血行再建術、ステント血栓症、入院を要する脳梗塞」の1年間発生リスクに、両群間で有意差はなかった。むしろ、「モニタ群」において増加傾向が認められた(ハザード比:1.13、95%信頼区間:0.98~1.29)。この「モニタ」群における増加傾向は、上記イベントのいずれにおいても観察された。また、「モニタ」群で有意に一次評価項目が減少していたサブグループもなかった。
一方、安全性に関しては、有意差はないものの「大出血」、「小出血」とも「モニター」群で減少傾向を認めた。
以上よりMontalescot氏は、「これらの結果より、ステント留置例におけるルーチンな血小板活性測定は支持できない」と結論した。
指定討論者であるミシガン大学(米国)のEric R Beats氏は、無作為化試験GRAVITAS、TRIGGER-PCIだけでなく、レジストリ研究(ADEPT-DES、MADONNA、RECLOSE2-ACS)においても、血小板活性測定を用いた抗血小板療法調節は予後を改善していない点に言及。血小板反応は介入対象となる「リスク」ではなく、何らかの「リスクのマーカー」である可能性があると述べた。
取材協力:宇津貴史(医学レポーター)
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