学会3日目となる6日のLate Breaking Clinical Trialsセッションでは、昨年の本学会で報告されたSCIPIO試験の2年追跡データが報告された。心筋梗塞後の左室機能低下例に対する、初の心筋幹細胞移植の安全性・有効性を検討した第 I 相試験である。2年間追跡後も、1年間追跡時と同様の有用性が確認された。ルイビル大学(米国)のRoberto Bolli氏が報告した。
SCIPIO試験の対象は、心筋梗塞既往を認め、2週間以内のCABG施行が予定されていた左室機能低下例(左室駆出率≦40%)である。今回報告されたのは移植20例、対照13例のデータである。
移植する心筋幹細胞は、CABG施行時に採取した心筋からc-kit陽性細胞を単離して培養。経カテーテル的にバルーンを用いて、冠動脈から心筋に注入した。
その結果、NYHA分類は、移植4か月後に平均0.68と、移植前に比べ有意に改善したのに引き続き、1年後は0.89、さらに2年後には0.92と、改善していた(いずれも移植前に比べ有意)。対照群では、このような有意な改善は認められなかった。またQOL(ミネソタ心不全QOL質問票スコア)も、心筋幹細胞移植群でのみ、有意な減少を認めた。
心機能を見ると、3次元エコーで評価した左室駆出率(EF)は移植1年後と同様、2年経過後も、移植群でのみ有意に改善した(対照群では不変)。また移植群のEFは、経時的に増加する傾向を認めた。移植群における経時的EFの増加は、MRI評価可能例での検討でも認められた。
心筋幹細胞移植による心機能改善の可能性を示した本試験だが、わが国からは東海大学特任准教授 細田 徹氏が参加している。同氏はc-kitを用いた心筋幹細胞単離法を確立したグループの一員である。
また本セッションでは、心筋幹細胞移植を検討したもう一つの臨床試験ALCADIAを、京都府立医科大学客員講師の竹原有史氏が報告している。こちらはc-kit陽性細胞ではなく生検で摘出したcardiosphereを用いて、CABG施行時に移植。さらに生体溶解シートを用いたbFGF(線維芽細胞増殖因子)持続投与を組み合わせている。こちらも虚血後左室機能低下例に対する有用性が示唆されており、心筋幹細胞移植医療における日本人研究者の活躍が光るセッションとなった。
取材協力:宇津貴史(医学レポーター)
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