2013年7月9日(火)、サノフィ株式会社による「2型糖尿病の最適な血糖コントロール」をテーマとしたメディアセミナーが開催された。演者の東京医科大学内科学第三講座 主任教授の小田原 雅人氏は、6月21日~25日に米国シカゴで開催された米国糖尿病学会(ADA)年次学術集会において発表されたATLAS(Asian Treat to target Lantus Study)の意義について語り、「血糖コントロールが不十分な患者自身が基礎インスリンの用量調節を行った場合でも、良好な血糖コントロールが得られることが明らかになった」と述べた。
インスリン療法の現状
インスリンは固定用量で投与する薬剤ではなく、血糖コントロールや病態に合わせて適切な用量に調節する必要がある。しかし、血糖コントロールが不十分であるにもかかわらず、初期投与量のまま増量していなかったり、専門医が設定した用量のまま漫然と継続していたりすることが多い。
今年、ADA年次学術集会で発表されたATLASは、基礎インスリンの用量調節に関する試験である。本試験はアジア人を対象とした試験ということもあり、今回のエビデンスは、わが国の2型糖尿病患者におけるインスリンの用量調節のあり方について、少なからず影響を与えるものと考えられる。
ATLASの概要
ATLASは日本人を含むアジア人552例を対象に、インスリン グラルギンの新規導入時に医師主導もしくは患者主導で用量調節を行った場合の有効性を比較した試験である。両群とも同じアルゴリズムを用いて、空腹時血糖値が110mg/dLとなるようにインスリンの用量調節を行った。試験の結果、血糖値の相対的な低下度は、患者主導群の方が大きかった。また、重症低血糖の発現率は、患者主導群と医師主導群で差を認めなかった。夜間低血糖、症候性低血糖の発現率はいずれも患者主導群で高かったが、患者教育を行うことで対処が可能であった。
まとめ
基礎インスリンの適切な用量調節を阻む要因は大きく分けて、「治療目標の認識不足」、「用量調節の指標がないこと」、そして「低血糖への恐れ」の3つであるという。現在は日本糖尿病学会のガイドラインにおいて、国内外における状況やエビデンスをふまえた血糖コントロール目標値が設定されているため、それぞれの患者に合った目標値を目指して治療を行うことが可能である。
また、ATLASの結果から、患者自身が簡易なアルゴリズムを用いて基礎インスリンの用量調節を行っても医師主導の治療に劣らない血糖コントロール効果が得られること、重症低血糖の発現率も差がないことが明らかになった。今後は基礎インスリンの積極的な用量調節を行い、患者のHbA1cをできるだけ健常人に近づけることが、合併症の発症・進展抑制、健常人と変わらない寿命・QOLの確保につながるのではないだろうか。
(ケアネット 武田真貴子)