福島原発事故は甲状腺がんを増加させたか?

提供元:ケアネット

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公開日:2014/09/09

 

 東日本大震災による東京電力福島原発事故で大量の放射性物質が放出された。事故はチェルノブイリと同じレベル7に評価されたが、環境中に放出された放射性物質の量は7分の1程度、小児甲状腺がん発症の可能性は少ないと考えられている。しかし、住民の不安は解消されていない。

 2014年8月28日~30日、横浜市で開催された日本癌治療学会学術集会にて、福島県立医科大学医学部 甲状腺内分泌学講座 鈴木 眞一氏は、「県民健康調査データに見る甲状腺超音波検査と放射線被ばくについて」と題し、福島県における小児甲状腺がん発症の現状調査の結果を紹介した。

 住民の不安を解消するためには、まず現在の甲状腺がん発症状態を把握することが重要である。そこで、福島県民健康管理調査の詳細調査の1つとして、事故当時18歳以下の全県民36万人に対する甲状腺検査が、事故7ヵ月後の2011年10月9日より実施されている。

 検査は一次検査と二次検査からなる。 一次検査は超音波検査により嚢胞、結節をスクリーニングすることが目的であり、二次検査は一次検査でB判定以上の住民を精査することが目的である。

一次検査の判定基準は、
A:正常範囲と思われるもの
(A1:嚢胞や結節を認めない、A2:5.0mm以下の結節 or/and 20.0mm以下の嚢胞)
B:5.1mm以上の結節 or/and 20.0mm以上の嚢胞
C:ただちに二次検査が必要と思われるもの
である。

 A判定であれば2年後の検診となり、B判定以上では二次検査に進み、高精度超音波検査などを行い診断基準を用いて判断される。

 2014年6月30日現在、調査対象36万7,707人の80.5%に当たる、29万6,026人が一次検査を受診している。
 結果、A1判定が51.5%、A2が47.7%、Bが0.8%であり、Cは1人のみであった。A2は大半が20mm以下の嚢胞であり、Bはほとんどが結節であった。

 二次検査は、2012年3月~2014年6月までに1,951人が受診した。結果、B判定からA判定にダウンステージした例が34%、細胞診不要となった例が40%、細胞診実施例が26%であった。細胞診実施例のうち104人が悪性ないしは悪性疑いという結果となった。平均年齢は17.1歳(震災当時14.8歳)、男女比36:68、平均腫瘍径14.3㎜であった。58人の手術例中、乳頭がん55人、低分化がん2人、良性結節1人であった。
 また、これら悪性ないし悪性疑い例の実効線量の状況をみると、最大が2.2mSvで67.4%が1mSv以下であった。

 甲状腺がんは原発事故後の影響で起こったのか?
今回の先行調査の結果からは、地域差が認められていない、発症年齢の分布が非被曝群と変わらない、従来本邦で報告されている腫瘍径よりも小さい、チェルノブイリで認められた乳頭がん亜型は認められていない、などが明らかとなった。
 これらのことから、現時点で発見されている甲状腺がんは、超音波による高精度の検診の影響で、より早期に発見された可能性が高く、放射線被曝の影響とは考えにくいという。今後はこの先行調査を甲状腺がん頻度のベースラインとして、引き続き見守っていくことが重要である。

(ケアネット 細田 雅之)