「てんかんを持つ人が生き生きと暮らすためには、周囲の理解と連携が必要です」、そう話すのは、岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 発達神経病態学分野 准教授の吉永 治美 氏だ。
2015年11月10日、大塚製薬株式会社・ユーシービージャパン株式会社主催のてんかんアカデミーが開催された。てんかん患者は年齢や性別によってさまざまな悩みを抱える。てんかんを持ちながら生きる患者には、どのような助けが望まれているのか。今回は「小児期」「成長期」「女性」のそれぞれの視点からの悩み、そして求められる対策を考える。
誤認しやすい「子供」のてんかん発作
小児てんかんは正しい診断・治療で治ることが多い。一方で、「発作が区別しにくく、誤診につながりやすい」という特殊性を持つ。間違った治療は“見せかけの難治てんかん”をもたらす。
たとえば、一口に「ボーっとする」といっても、全般発作である欠神発作と、部分発作である複雑部分発作の2つの可能性があり、区別は難しい。それぞれ使うべき薬剤も異なり、反対に使用してしまうと病状を悪化させる可能性がある。
また「親の介入が発作の誤認につながる場合もあるのも問題だ。わが子への心配が、発作の過小申告・副作用の過大申告などを招き、その結果、十分に薬剤を試せないうちに中断してしまう。
医療者側はこういった誤診・間違った治療を防ぐために、正確な病歴聴取や脳波検査・血中濃度測定など行うことが重要だ。
患者はてんかんを持ちながら「成長する」
小児の患者もいつかは成人になる。成長過程で起こる問題としては、小児てんかん患者が成人になっても小児科を受診してしまう「キャリーオーバー」がある。
2013年の調査では、小児科医が成人科への転科を勧めにくい理由は「適当な紹介先がない」が75%と最も多い。実際、日本てんかん学会認定専門医の内訳をみると、小児科が55%と半分を占める。「成人てんかんを受け入れる専門医の不足」が現状の課題だ。
さらに軽度な症例に関しては、小児科と、内科を中心とする成人科のかかりつけ医との連携も重要となる。
小児てんかんは長期経過を見据えた治療が求められる。てんかん医師不足の改善と同時に、患者・家族へ小児期から今後必要となる治療の事前説明を行いながら、地域医師との連携を行うことが問題解決の一歩となる。
てんかん患者であり「女性」であること
てんかん患者が女性の場合、月経異常など性ホルモンへの影響に加え「妊娠・出産」が大きな悩みとなる場合が多い。
てんかん女性の妊娠合併症率は一般女性と比べ明らかな差はない。通常、発作回数は妊娠の影響を受けないが、発作が増加すると、妊娠中や出産時のリスクになるだけでなく、出産後に「赤ちゃんを抱っこしているときに発作が起き、赤ちゃんを落としてしまう」といった事態も起こりうる。ところが、発作が起きる要因として一番大きいのは「怠薬」であるといわれている。胎児に対する影響を心配して服用を中止してしまう女性が多くいるのだ。
これは、妊娠前から計画的に治療を見直すことで対処できる。妊娠に影響が少ない薬剤選択、発作の状態の維持など、専門医による正しい治療指導、そして周囲のサポートを充実させ、「てんかんを持つ女性を一人で悩ませない」ことが必要だ。
良質のてんかん診療をすべての患者が受けるためには「てんかん専門医の良質な診断と治療計画」が重要なことは間違いない。それと同時に「てんかんは特別な疾患ではない」という理解が進み、地域連携が進むことが求められる。
厚労省では「てんかん診療ネットワーク」という計画が進行中である。この取り組みにより、今後各地域に1つずつてんかん拠点病院が置かれ、地域連携を目指す試みが始まる。
このような取り組みによって、一人でも多くのてんかん患者が「てんかんと共に生きる」ことの課題を乗り越えられる未来が望まれる。
(ケアネット 加藤 千恵)