予後が改善されつつある難病LAL-D 提供元:ケアネット ツイート 公開日:2016/07/01 アレクシオンファーマ合同会社は、6月23日都内において、5月25日に発売されたライソゾーム酸性リパーゼ欠損症治療薬「カヌマ点滴静注液20mg」[一般名:セベリパーゼ アルファ(遺伝子組み換え)]に関するプレスセミナーを開催した。「ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症」(以下「LAL-D」と略す)は、遺伝子変異が原因でライソゾーム酸性リパーゼという酵素活性が低下または欠損することで発症するまれな代謝性疾患であり、患者の多くが肝硬変から肝不全、死亡へと至る予後不良の希少疾患である。セミナーでは、本症の最新知見について2人の研究者が講演を行った。 「ちょっと気になる脂肪肝」への意識が大事 はじめに、「LAL-Dの疾患概要と自験例紹介」というテーマで、村上 潤氏(鳥取大学医学部附属病院 小児科 講師)が、診断の視点から自験例を交え、レクチャーを行った。 通常「脂肪肝」は、栄養性、薬剤性、先天代謝異常症などが原因で起こり、腹部エコーやCT、MRI、肝生検などで詳しく診断が行われる。しかし、小児の脂肪肝では、一定頻度で先天性代謝異常が存在し、注意が必要であるという。たとえば、小児で肥満がなく、肝腫大の程度が強く、体重増加不良、低血糖、発達遅滞などの症状や、乳酸、アンモニア高値などを伴う脂肪肝を見かけたら、先天代謝異常症を疑う必要がある。 この先天代謝異常症の一つにLAL-Dがあり、LAL-DにはLAL活性が完全欠損している乳児型のWolman病(WD)と、部分欠損している遅発型のコレステロールエステル蓄積症(CESD)の2つの表現型がある。 WDでは、顕著な肝・脾腫大や肝不全を観察し、持続性の嘔吐・下痢、腹部膨満、腸管の吸収不良、胆汁うっ滞などの症状があり、急速進行性で致死的である。一方、CESDでは、同じく肝・脾腫大が観察され、一般に肥満はないとされる。臨床所見では、ALT>正常上限の1.5倍以上、LDL-C≧182mg/dL、HDL-C<50mg/dLなどが見られ、肝生検では、小滴性脂肪沈着も観察される。患者の89%が12歳未満で発症、50%が21歳未満で死亡している。 LAL-Dの正確な罹患率は、疫学調査が行われていないため不明であるが、2013年までに全国でWDが12例、CESDが13例報告されている。 自験例として、11歳・男児について、小学校の健診で高脂血症を指摘されたことで精査へとつながり、LAL-Dと診断された例を紹介した。一見、一般的な脂肪肝と見なしがちで、臨床検査や画像診断ではなかなか見分けがつきにくいところが、本症の診断の難しい点であるという。 本症のスクリーニングについては、肝臓関連所見では持続性肝腫大、原因不明のトランスアミナーゼ値上昇、顕著な小滴性脂肪沈着、潜在性肝硬変、インスリン耐性がないメタボリックシンドロームと思われる患者が挙げられ、脂質関連所見では、高LDL-C値および/または低HDL-C値、家族歴不明の家族性高コレステロール血症(FH)疑い、 LDLR、APO BおよびPCSK9をコードする遺伝子の検査結果陰性のFH疑いが挙げられる。 確定診断は、非侵襲的で簡便な方法である血中酵素活性測定によって診断される。 補充療法が予後を改善 続いて、「ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症の臨床像と治療」と題して、天野 克之氏(東京慈恵会医科大学附属病院 消化器肝臓内科 診療医長)が、治療の視点から本症と新治療薬について解説を行った。 従来、LAL-Dは、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)などと同じ治療法で、支持療法が行われてきた。また、臓器移植を行ってもその治療効果は弱いものであったという。 今回、本症の治療薬として発売されたセベリパーゼ アルファ(商品名:カヌマ)は、遺伝子組換えヒトライソゾーム酸性リパーゼ製剤であり、細胞内に取り込まれた後、ライソゾームに運ばれ、コレステロールエステル(CE)およびトリグリセリド(TG)を加水分解する作用を持つ。これにより脂肪量の減少、LDL-CやTGの低下、HDL-Cの上昇、脂質減少による成長障害の改善が期待されている。 臨床試験は、2歳未満の小児(n=9)と4歳以上の小児/成人(n=66)に分かれて実施され、報告された。 2歳未満の小児では、カヌマを週1回、最大5mg/kgまでを最長208週間投与した結果、生後12ヵ月で9例中6例が生存していたほか、ALT/ASTの顕著な減少、体重増加、リンパ節腫脹、血清アルブミン値の改善が認められた(II/III相試験)。 4歳以上の小児/成人では、30例をプラセボに、36例をカヌマ(1mg/kg、2週に1回投与)に割り付けて、20週の効果を比較した。その結果、ALTの正常化が認められた患者がプラセボ7%に対し、カヌマでは31%、同様にASTでプラセボ3%に対し、カヌマでは42%だった。また、肝脂肪量の減少(ベースラインからの平均変化率)では、プラセボ-4%に対し、カヌマでは-32%だったほか、LDL-C低下、脂質プロファイルの改善なども見られた(III相試験/20週後はオープンラベルで実施)。ALTのベースラインからの平均変化率推移では、投与後4週までに急激に下がり、肝機能が改善されることで以後はフラットに維持される。報告された有害事象は、尿路感染症、アナフィラキシー反応、不安症などで、いずれも重篤なものではないが、投与1年後までみられる場合があるという。 自験例として21歳・女性の例を紹介し、13歳でLAL-Dと診断されて以降、高脂血症などの対症療法が行われてきたが、カヌマによる治療で速やかに肝機能、脂質異常が改善し、対症療法の常用薬の中止も検討されていることを報告し、レクチャーを終えた。 関連コンテンツ待望の治療薬登場、希少疾患に福音 新薬情報:カヌマ点滴静注液20mg (ケアネット 稲川 進) 掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。) 関連記事 2型糖尿病の肝硬変、GLP-1受容体作動薬により死亡リスク減 医療一般(2023/08/18) このページを印刷する ツイート [ 最新ニュース ] 敗血症疑い患者の抗菌薬の期間短縮、PCTガイド下vs.CRPガイド下/JAMA(2024/12/25) 閉経後HRT(ホルモン補充療法)のビッグデータを用いたtarget trial emulation(標的模倣試験)の結果(解説:名郷直樹氏)(2024/12/25) オンコタイプDX再発スコア≧31のHR+/HER2ー乳がん、アントラサイクリンによるベネフィット得られる可能性(TAILORx)/SABCS2024(2024/12/25) 日本におけるレカネマブ治療施設の現状〜北海道のいま(2024/12/25) 乾癬治療のデュークラバシチニブ、長期投与の有用性(2024/12/25) 鉄剤処方や検査・問診のポイント~「鉄欠乏性貧血の診療指針」発刊(2024/12/25) 患部への血流遮断で変形性膝関節症の痛みが軽減(2024/12/25) 再利用ペースメーカーは安全で再利用可能(2024/12/25) SGLT2iはDPP-4iより網膜症リスクを抑制する可能性―国内リアルワールド研究(2024/12/25) [ あわせて読みたい ] Dr.大塚の人生相談(2024/02/26) 災害対策まとめページ(2024/02/05) IBD(炎症性腸疾患)特集(2023/09/01) 旬をグルメしながらCVIT誌のインパクトファクター獲得を祝福する【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第63回(2023/08/29) エキスパートが教える痛み診療のコツ(2018/10/11) 医療者向け『学校がん教育.com』(2022/12/01) アトピー性皮膚炎・乾癬特集まとめインデックス(2022/11/11) アトピー性皮膚炎・乾癬特集まとめインデックス(2022/11/11) 診療所売買に関心がある方に!マンガ連載をまとめた冊子プレゼント【ひつじ・ヤギ先生と学ぶ 医業承継キソの基礎 】第43回(2022/10/17) 今考える肺がん治療(2022/08/24)