孫の世話に疲れる高齢者
大都市の待機児童の問題にみられるように、保育園や幼稚園に入所できず、祖父母に子供を預ける共働き世帯も多い。また、地方では、2世帯同居が珍しくなく、日中、孫の育児を祖父母がみるという家庭も多い。そんななか、預かった孫の世話に追われ、体力的にも精神的にも疲れてしまう「孫疲れ」という現象が、最近顕在化しているという。晩婚化のため祖父母が高齢化し、体力的に衰えてきているところに、孫の育児をすることで、身体が追いついていかないことが原因ともいわれている。
家庭内で感染する感染症
そして、孫に疲れた高齢者に家庭内、とくに孫から祖父母へうつる感染症が問題となっている。子供は、よく感染症を外からもらってくる。風邪、インフルエンザをはじめとして、アデノウイルス、ノロウイルス、帯状疱疹など種々の細菌、ウイルスが子供への感染をきっかけに家庭内に持ち込まれ、両親、兄弟、祖父母へと感染を拡大させる。
日頃孫の面倒をみていない祖父母でも、お盆や年末、大型連休などの帰省シーズンに帰ってきた孫との接触で感染することも十分考えられ、連休明けに高齢者の風邪や肺炎患者が外来で増えているなと感じている医療者も多いのではないだろうか
1)。
ワクチンで予防できる肺炎
なかでも高齢者が、注意しなくてはいけないのが「肺炎」である。肺炎は、厚生労働省の「人口動態統計(2013年)」によれば、がん、心疾患についで死亡原因の第3位であり、近年も徐々に上昇しつつある。また、肺炎による死亡者の96.8%を65歳以上の高齢者が占めることから肺炎にかからない対策が望まれる。
日常生活でできる肺炎予防としては、口腔・上下気道のクリーニング、嚥下障害・誤嚥の予防、栄養の保持、加湿器使用などでの環境整備、ワクチン接種が推奨されている。とくにワクチン接種については、高齢者の市中肺炎の原因菌の約4分の1が肺炎球菌と報告
2)されていることから、2014年よりわが国の施策として、高齢者を対象に肺炎球菌ワクチンが定期接種となり、実施されている。
定期接種では、65歳以上の高齢者に23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(商品名:ニューモバックスNP)の接種が行われ、平成30年度まで経過措置として65歳から5歳刻みで区切った年齢の該当者に接種が行われる。
定期接種の注意点と効果を上げるコツ
定期接種の際に気を付けたいことは、経過措置の期間中に接種年齢に該当する高齢者が接種を受けなかった場合、以後は補助が受けられず自己負担となってしまうことである(自治体によっては、独自の補助などもある)。また、過去にこのワクチンの任意接種を受けた人も、定期接種の対象からは外れてしまうので注意が必要となる。
そして、ワクチンの効果は約5年とされ、以後は継続して任意で接種を受けることが望ましいとされている。
このほか高齢者においては肺炎球菌ワクチンだけでなく、同時にインフルエンザワクチンも接種することで、発症リスクを減らすことが期待できるとされる
3,4)。低年齢の子供へのインフルエンザワクチンの接種により、高齢者のインフルエンザ感染が減少したという報告
5)と同様に肺炎球菌ワクチンでも同じような報告
6)があり、今後のワクチン接種の展開が期待されている。
普段からの孫との同居や預かり、連休の帰省時の接触など、年間を通じて何かと幼い子供と接する機会の多い高齢者が、健康寿命を長く保つためにも、高齢者と子供が同時にワクチンを接種するなどの医療政策の推進が、現在求められている。
この秋から冬の流行シーズンを控え、今から万全の対策が望まれる。
(ケアネット 稲川 進)
参考文献
1)
Walter ND, et al. N Engl J Med. 2009;361:2584-2585.
2)
日本呼吸器学会. 成人市中肺炎診療ガイドライン. 2007;15.
3)
Maruyama T, et al. BMJ. 2010;340:c1004.
4)
Kawakami K, et al. Vaccine. 2010;28:7063-7069.
5)
Reichert TA, et al. N Engl J Med. 2001;344:889-896.
6)
Pilishvili T, et al. J Infect Dis. 2010;201:32-41.
参考サイト
ケアネット・ドットコム 特集 肺炎
厚生労働省 肺炎球菌感染症(高齢者):定期接種のお知らせ
肺炎予防.JP