医療ビッグデータの活用と漢方薬による医療費削減

提供元:ケアネット

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公開日:2016/09/20

 

 2016年9月6日、都内で第135回漢方医学フォーラム(後援:株式会社ツムラ)が開催され、東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻 臨床疫学・経済学教授の康永 秀生氏による講演「医療ビッグデータを用いた臨床疫学研究の最前線~漢方薬による医療費削減~」が行われた。

 現存する医療ビッグデータの中でも、その研究利用を期待されているのがDPC(Diagnosis Procedure Combination)データである。DPCデータは、全国のDPC病院(大学病院を含む大・中規模の病院)で収集可能な入院診療データであり、記録される情報は主傷病名、手術術式から身長・体重、意識レベルといった臨床データまで多岐にわたる。その情報量の多さから、DPCデータは医療内容や医療機関の評価にも利用可能であり、医療の可視化や透明性の確保に応用されている。
 では、今回のテーマである漢方薬とDPCデータの間にはどのような関係性があるのだろうか。

 本講演では、漢方薬の一種である五苓散についてのDPCデータを用いた研究結果が紹介された。五苓散は、慢性硬膜下血腫に対する穿頭血腫洗浄術後、再発防止を目的として投与されるが、有効性に関するエビデンスは十分なものではなかった。
 DPCデータ解析の結果、五苓散使用群で再手術率の有意な低下が認められた(五苓散非使用群:6.2%、五苓散使用群:4.8%、リスク差:−1.4%[95%信頼区間:−2.4%〜−0.38%])。また、平均総入院医療費に関しては、五苓散の薬価を含めた上でも五苓散使用群で有意に低い結果となった(五苓散非使用群:67.1万円/人、五苓散使用群:64.3万円/人、p=0.030)。康永氏は、「医療は少しでも治る確率の高いものを選択していくことの連続である」と、先の結果に対する見解を述べた。

 このように、DPCデータを用いることにより、漢方薬の効果および医療費への影響を客観的に評価することが可能となる。漢方薬のように既に普及している薬剤にとって、医療の再検証を可能にする医療ビッグデータ解析はまさに適した研究手法といえよう。漢方薬全体としては、五苓散のようにエビデンスが存在する例はまだ限定的である。今後、より効率性と質の高い医療の実現に向けて、医療ビッグデータを活用したさらなるエビデンスの集積を心待ちにしたい。

(ケアネット 細川 千鶴)