遺伝性の卵巣がん治療とPARP阻害薬の可能性

提供元:ケアネット

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公開日:2017/05/22

 

 2017年5月11日、都内で第7回アストラゼネカ・オンコロジーサイエンス・メディアセミナー「日本における遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)とそのアンメットニーズ」が開催された。演者である青木 大輔氏(慶應義塾大学医学部 産婦人科学教室 教授)は、卵巣がんを中心にHBOC診療の実際について講演。「治癒の難しい卵巣がんにおいて、再発を遅らせることの意義は非常に大きい」と述べ、オラパリブをはじめとしたPARP阻害薬への期待を示した。

HBOCは若年発症や重複発症が特徴
 遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC:Hereditary Breast Ovarian Cancer)は、BRCA1 /2 をはじめとする遺伝子の変異が原因で発症する遺伝性腫瘍の1つで、若年性(45歳以下で乳がん発症)、両側性(両方の乳房で発症)、重複性(乳がんと卵巣がんの発症)などの特徴を持つ。卵巣がん全体の約10%とまれではあるものの、一般的な卵巣がん患者とは異なるマネジメントが求められるが、認知・理解度が低いのが現状だ。2016年にアストラゼネカ株式会社が行った調査では、乳がん・卵巣がん患者であっても、HBOCの認知度は約半数に留まっていた。

 「家族歴のほか、本人が特定の乳がん(若年性、両側性、トリプルネガティブ乳がん等)あるいは卵巣がんと診断された時点で、HBOCのリスクがあると考えて遺伝カウンセリングや遺伝学的検査等を適切に実施していくことが重要。ただし、費用を含め、検査を受けることで得られる利益とリスク、限界を説明し、合意を得ながら進める必要がある」と青木氏は指摘した。

発症前予防には摘出術が推奨されるが…
 BRCA1 /2 遺伝子変異陽性の場合、卵巣がんは有効な早期発見法がなく、進行卵巣がんの予後が不良であるため、発症前予防としてリスク低減卵巣卵管摘出術(RRSO:Risk Reducing Salpingo-Oophorectomy)を実施することが最も有効とされている。しかし、35~40歳という妊孕性温存の希望も多い年齢での施行が推奨されることや、BRCA1 /2遺伝子変異陽性であっても必ずしもがんを発症するわけではないことなどから、青木氏は「患者さんにとっては非常に難しい判断を迫られるものになり、慎重なカウンセリングが求められる」と述べた。

PARP阻害薬への期待
 2017年3月16日、アストラゼネカ株式会社は、BRCA1 /2遺伝子陽性の再発卵巣がん患者を対象に、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害薬オラパリブの維持療法について評価した国際共同第III相臨床試験(SOLO-2試験)において、無増悪生存期間(PFS)の延長が示されたことを発表した。続く3月24日には、オラパリブは厚生労働省から希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)の指定を受けている。

 青木氏は、「SOLO-2試験の結果は非常に期待が持てるデータ」と話し、「現在、オラパリブをはじめとした複数のPARP阻害薬の開発が進んでいる。どの治療法が適しているのか、今後は遺伝子変異やがんのステージ等に応じた個別の治療法選択・マネジメントが必要となる。遺伝カウンセラーや生殖カウンセラーとの協働を含めた体制整備が必要だろう」と結んだ。

 最後に登壇した橋上 聖氏(アストラゼネカ株式会社 メディカル本部 オンコロジー領域部 部門長)は、早期の治療機会提供のため、SOLO-2試験と同じBRCA遺伝子変異陽性プラチナ製剤感受性再発卵巣がん患者を対象としたオラパリブの拡大治験を、2017年4月より開始したことを報告。現在も登録受付中とのことだ。

(ケアネット 遊佐 なつみ)

参考

アストラゼネカ株式会社ニュースリリース(乳がん・卵巣がん患者のHBOC認知・理解度調査結果発表)
オラパリブ、BRCA変異陽性卵巣がんの病勢進行リスクを70%低減:アストラゼネカ
オラパリブがBRCA変異陽性卵巣がんの希少疾病用医薬品に指定