これまでの研究では、診察室血圧変動の大きさが、認知障害や認知症のリスク因子であることが報告されている。しかし、家庭での血圧測定によって評価された日々の血圧変動と認知症発症との関連を調べた研究はなかった。九州大学の大石 絵美氏らは、久山町研究に登録されている日本人高齢者の日常血圧変動と認知症リスクとの関連を調査した。Circulation誌2017年8月8日号の報告。
認知症でない60歳以上の日本人高齢者1,674人を対象に、5年フォローアップ調査を行った(2007~12年)。家庭血圧は、毎朝3回測定した(中央値:28日)。日々の収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)の変動は、自宅でのSBPおよびDBPの変動係数(CoV)として計算し、四分位で分類した。すべての認知症、血管性認知症(VaD)、アルツハイマー型認知症(AD)の発症に対する家庭血圧のCoVレベルのハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)は、Cox比例ハザードモデルを用いて算出した。
主な結果は以下のとおり。
・フォローアップ期間中に認知症を発症したのは194人、そのうちVaD47人、AD134人であった。
・すべての認知症、VaD、AD発症率は、年齢・性別で調整したのち、家庭SBPのCoVレベル増加とともに有意に増加していた(すべて、P for trend<0.05)。
・家庭SBPを含む潜在的な交絡因子で調整したのちでも、これらの関連は変化しなかった。
・家庭SBPのCoVレベル第4四分位群の人におけるすべての認知症(HR:2.27、95%CI:1.45~3.55、p<0.001)、VaD(HR:2.79、95%CI:1.04~7.51、p=0.03)、AD(HR:2.22、95%CI:1.31~3.75、p<0.001)発症リスクは、第1四分位群の人と比較し、有意に高かった。
・家庭DBP血圧のCoVレベルについても、同様の関連が認められた。
・家庭SBPレベルは、VaDリスクと有意な関連が認められたが、すべての認知症およびADリスクとは関連が認められなかった。
・家庭SBPレベルと家庭SBPのCoVレベルとの間に、認知症の各サブタイプリスクと関連する相互作用は認められなかった。
著者らは「家庭血圧の平均値とは無関係に、日常の血圧変動の増加が、日本人高齢者のすべての認知症、VaD、AD発症のリスク因子であることが示唆された」としている。
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