日本動脈硬化学会が、家族性高コレステロール血症(FH)を医師に正しく理解してもらうために、eラーニングを用いた啓発活動を開始した。FHは遺伝性疾患として最も頻度が高いにもかかわらず、わが国では一般医に十分認知されていないため、診断率がきわめて低いのが問題になっている。
日本動脈硬化学会理事長の山下 静也氏(りんくう総合医療センター 院長)にFHに対する問題意識、今回の学会の取り組みの狙いなどを聞いた。
―FHとはどのような疾患なのでしょうか
FHは主として常染色体優性遺伝形式をとる遺伝性疾患です。著明なLDLコレステロール(LDL-C)高値を示し、家族内にLDL-Cの高い人がおり、アキレス腱黄色腫を特徴とします。FHでは早発性冠動脈疾患が高頻度で発症します。
また、FHの発生頻度は、200~500人に1人とされており、遺伝性疾患としては最も頻度の高い疾患だと言えます。脂質異常症を数多く診療されている先生であれば、患者さんの中にFHが含まれている可能性は高いと思います。
―なぜFHの啓発活動を行う必要があるのですか?
学会がもっとも深刻な課題だと認識しているのが、その診断率の低さです。FH診断率は、もっとも高いオランダでは71%に達していますが、日本では1%以下であり、ほとんどのFH患者さんは見逃されてしまっている状態です。ですので、1人でも多くの医師にFHに関する基本的な情報を提供し、FH診断率の向上につながれば、早発性冠動脈疾患を防ぐことも可能と考え、今回の取り組みを始めました。
―FHを見逃すべきではない理由は何でしょうか?
どんな疾患も見逃すべきではありませんが、なかでもFHは最も見逃してほしくない疾患です。FHは遺伝性疾患ですので、胎児の時から高いLDL-Cに曝露されています。これが、他の脂質異常症に比べ、きわめて早期に冠動脈疾患を発症する理由です。
男性では30代、女性では40代から冠動脈疾患を発症し始めます。FHを早期に診断し、適切な治療介入を行うことで、冠動脈疾患の発症を予防していくことがきわめて重要です。
―FHの診断は難しいのでしょうか?
FHの病態を正しく理解し、健診や脂質異常症の診療時に疑っていただければそれほど難しくはありません。LDL-C値が180mg/dL以上の患者さんがいたら、まずアキレス腱を触診してみてください。肥厚が認められれば(X線軟線撮影によりアキレス腱9mm以上)、FHの診断基準を満たします。アキレス腱肥厚がない場合でも、早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内)があれば、FHと診断されます。LDL-Cが250mg/dL以上の場合はFHを強く疑いますし、若いときからLDL-Cが高い場合にはFHを疑うべきで、家族にLDL-Cの高い人がいないかどうかを問診します。
また、急性冠症候群(ACS)の約10~20%にアキレス腱肥厚が認められますので、ACSで運び込まれた患者さんのアキレス腱を触診するのもとても大切なことです。
―FHの疾患啓発について学会の取り組みを教えてください
日本動脈硬化学会では、より多くの先生方にFH診療を理解していただくために、2017年1月に小児FH診療ガイドを、6月に家族性高コレステロール血症診療ガイドラインを公開しています。また、世界FH dayである9月24日に合わせ、市民公開講座や医療者向けセミナー、プレスセミナーなどを実施するなどの活動もしてきました。
今回はさらに、医師に広くFHを理解いただくために、医薬教育倫理協会(AMEE)と共同で、eラーニングプログラムを開発、2018年6月に公開いたしました。FHの病態・診断・治療を実際の症例を盛り込み、臨床医目線でわかりやすく解説しています。
日本動脈硬化学会の認定単位対象プログラムですが、医師であればどなたでも視聴することができます。ぜひご覧いただき、FHに対する理解を深め、日常診療に役立てていただければと思います。
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(ケアネット)