バレンタインデーの由来となった聖バレンタインは、てんかんのある人々を庇護した聖人としてたたえられている。それ故、「世界てんかんの日」はバレンタインデー直前の月曜日、2月の第2月曜日と定められている。また、毎年3月26日をパープルデーと定めるなど、てんかんは世界的な社会啓発が進められている。2019年1月28日、大塚製薬株式会社が主催するプレスセミナー「てんかん患者を取り巻く環境を考える」が開催され、加藤 天美氏(近畿大学 脳神経外科主任教授)と川合 謙介氏(自治医科大学 脳神経外科教授)が登壇した。
てんかんの認知、てんかんを疑う感覚
パープルの花で胸を飾り登壇した加藤氏は、『高齢者てんかん』について講演。高齢者の3大神経疾患として脳血管障害、認知症と並ぶてんかんの発症割合は、ほかの2つに比べ断然高い。にもかかわらず、「社会だけでなく医療現場での認知も進んでいない」と同氏は語る。
てんかんを診断するには、本来、頭皮脳波検査を行うが、2017年にNature Medicineに掲載された症例では、この検査で異常が見られず、髄液中のアミロイド蛋白の増加などからアルツハイマー病と診断された。しかし、断続的な認知障害からてんかんを疑い、“頭蓋内電極法”で、海馬のてんかん性活動が同定され治療により軽快した。
このほかにも、同氏は脳波異常を示しにくい病態として、「一過性てんかん性健忘」について説明。物忘れ外来400例中26例がこれに該当したとの報告
1)もある。
恐ろしいてんかん重積状態
高齢者のてんかんは、重積状態による救急搬送も問題になっている。発症時間が明確でなく、発症すると認知機能へ大きなダメージを与える。また、てんかん重積状態の中でも、けいれんを伴わない非けいれん性てんかん重積状態(NCSE)の場合、予後不良で寝たきりや要介護となり、発症全患者の1/4は死亡ないし予後不良に至ることが明らかになった
2)。これを予防するために、同氏は「原因不明の意識障害患者には脳波検査を迅速に施行し、NCSEとの鑑別を行う」ことが望ましいと述べた。
就労の現状
てんかん患者の生きる張り合いとは何か。これまでのてんかん診療におけるゴールは、発作のコントロールとされてきた。現在は、「発作をコントロールすることで、患者がQOLを高めて社会参加すること」だと言う川合氏は、『てんかん患者の雇用と運転』について講演した。
谷口 豪氏(東京大学医学部附属病院精神神経科)によると、日本における就労の現状は、2007年時点で40%にも満たず、就労者の約40%がパートタイムの米国や非雇用率が31%の韓国に並ぶ。また、景気の波は雇用に影響を与えず、景気が好調なマレーシアでさえも、10.4%がパートタイム、20%は無職だという。
2007年に日本てんかん協会が行った、てんかんのある人の生活に関するアンケート(回収数:586件、回収率:45.7%)では、実に58%の方が「働く場があること」に生活の張りを見いだし、「家族がいること」に次いで大切な事柄であると明らかにされた。望む暮らしについては、「安定した職を持ち、経済的に自立したい」という回答が目立った。また、てんかんの病名開示は就職率には影響を与えるものの、就労継続期間には影響を与えなかったことから、就労継続には別の要素が関与している可能性が示唆されたという。
てんかん患者の就業に及ぼすさまざまな外的因子(雇用主の理解、経済状況など)がある中で、患者らは、「てんかんを理解してくれる職場」、「短時間労働が可能」などの条件を求めている。川合氏は「てんかん発作のコントロールと“同時に”就労支援が必要」とし、「作業の持続力や集中力、他社とのコミュニケーションのとり方などを、外来診療でアドバイスすることも重要」とコメントした。
てんかんと自動車運転
てんかん患者による自動車運転は、条件付きで認められている。ただし、どういう脳波・発作の時にどのような症状が出現するのか、どのような場合は運転できないのかを患者が理解できるように、医療者による治療開始時の適切な指導が鍵となる。また、双方が法律についても熟知しておく必要がある。
■道路交通法:運転免許に関わる法律
(過労運転等の禁止):運転者本人が対象(本人の責任)
第66条 過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常に運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。
(免許の拒否等):警察・公安委員会が対象
第90条 発作により意識障害または運動障害をもたらす病気にかかっている者については、政令の基準に従い、免許を与えない。
てんかん患者の自動車事故の原因はさまざまであるが、主に3つに分類され、それぞれの今後の課題を示すことができる。
1)治療開始前(初発発作時):自動車工学による発作検知
2)運転適性あり(発作再発):適性基準の見直し、医学的啓発
3)運転適性なし(発作):行政的抑制、医学啓発
てんかん患者の事故リスク比を無発作期間で区切って算出する傾向が世界的に浸透しているが、「無発作期間は発作再発率には影響を与えているが、致死的な交通事故への影響は検討の余地がある」とし、「事故につながる原因を個々で見いだしておくことが重要」と、同氏は締めくくった。
■参考
1)老年期認知症研究会誌. 2017;20:71-76
2)吉村 元ほか.臨床神経. 2008;48:242-248
日本てんかん協会:世界てんかんの日
パープルデー
(ケアネット 土井 舞子)