自治医科大学循環器科の苅尾七臣氏(=写真)らは、治療中の高血圧症患者に対するα遮断薬ドキサゾシンの就寝前投与によって、尿中アルブミン/クレアチニン比(urinary albumin/creatinine ratio、以下UAR)の有意な減少が認められたことをJournal of Hypertension誌6月号に発表した1)。これは厳格な早朝高血圧管理が臓器障害の発症抑制に及ぼす影響を検討することを目的としたJapan Morning Surge-1(JMS-1)試験より得られた結果で、α遮断薬の投与によって微量アルブミン尿が減少することを無作為化比較試験において証明した。以下、本試験の概要とこれまで得られていた知見を踏まえてレビューする。
600例を越える治療中の高血圧症例を対象とした無作為化比較試験
JMS-1試験では治療中の高血圧症患者611例がドキサゾシン群と対照群とに無作為に割り付けられ、6ヵ月後の血圧値(外来血圧、早朝血圧、就寝前血圧)とUARが評価された。ドキサゾシンは1~4mg/日を就寝前に投与された。対象の3人に2人はCa拮抗薬(ドキサゾシン群:66.6%、対照群:65.6%)が、約6割にARB(ドキサゾシン群:60.3%、対照群:57.5%)、約2割に利尿薬が投与されていた。また、約15%が糖尿病を合併しており(ドキサゾシン群:15.3%、対照群:16.5%)、238例(対象の39.0%)に微量アルブミン尿(UAR:30-300 mg/gCr)が認められた。
ドキサゾシンの追加投与によって治療中の高血圧症例の血圧が有意に低下
ドキサゾシンの投与によって試験期間中を通じて血圧値は対照群より低値でコントロールされ、6ヵ月後におけるドキサゾシン群と対照群の血圧差は、外来血圧で8.7/7.5mmHg、早朝血圧で8.9/6.0mmHg、就寝前血圧で4.8/4.0mmHgであり、いずれも有意な差を認めた。
ドキサゾシンの投与によって尿中アルブミン/クレアチニン値が有意に減少
UARはドキサゾシンの投与によって3.4mg/gCr減少し、対照群に比べて有意な差が認められた(p<0.001)。UARの減少作用は血圧の変化量と有意な相関、すなわち降圧度が大きいほど、UARの減少度も大きく、拡張期血圧より収縮期血圧との間により強い相関がみられた。この相関は、年齢、性、BMI調整後も認められた。UAR減少の有意かつ独立した因子は(1)ドキサゾシンの投与、(2)ベースラインにおける早朝収縮期血圧、(3)早朝収縮期血圧における降圧効果であった。
ベースラインにおいて微量アルブミン尿が認められた群を対象としたサブグループ解析では、対照群がUAR 8.1mg/gCrの低下に対し、ドキサゾシン群では27.9mg/gCrの低下がみられ、両群間で有意な差が認められた(p<0.001)。
ドキサゾシンの尿中アルブミン減少作用は併用薬に関係なく認められる
ドキサゾシンの降圧効果、UARの減少作用は、ドキサゾシン投与前に処方されていた降圧薬と関係なく認められた。レニン・アンジオテンシン系抑制薬(以下、RA系抑制薬)単独投与例(n=100)では早朝収縮期血圧が13.1mmHg、UARは3.4mg/gCr低下し、Ca拮抗薬単独投与例(n=80)では14.0mmHgの早朝収縮期血圧低下と3.0mg/gCrのUAR低下が認められた。また、RA系抑制薬+Ca拮抗薬併用例(n=118)では早朝収縮期血圧が12.3mmHg、UARは5.0mg/gCr低下した。
ARBやACE阻害薬の尿中アルブミン減少、蛋白尿減少作用は数多く報告されているが、α遮断薬における報告は多くない。Rachmaniらは糖尿病を合併した高血圧症例76例に対してドキサゾシン2-8mg/日の投与によって尿中アルブミン排泄率が373mg/24hから322mg/24hに有意に低下したことを報告している。さらにACE阻害薬にドキサゾシンを併用した場合は、365mg/24hから162mg/24hへの低下が認められている2)。また、長岡赤十字病院の鴨井氏らは糖尿病を合併した高血圧症50例に対し、ドキサゾシン1-8mg/日を投与し、3ヵ月間後の尿中アルブミン値が62mg/gCrから19mg/gCrに有意に減少したことを報告している3)。
先日、New England Journal of Medicine誌に高血圧を伴う2型糖尿病性顕性腎症に対して、ロサルタンの最大用量にレニン阻害薬であるアリスキレンを追加することによって、UARを20%低下することが発表された4)。微量アルブミン尿に対してレニン阻害薬とARBによるRA系の二重阻害も期待できそうであるが、わが国では現在のところアリスキレンは承認申請中であり、承認後もその有用性については日本人における使用経験を蓄積し、検証される必要がある。
近年、α遮断薬の投与機会が減少している。弊社が2007年6月に独自に調査したアンケート結果において、「降圧薬を処方している高血圧患者を100%とした場合、α遮断薬が投与されている高血圧患者は平均5.4%にとどまった(Ca拮抗薬:54.9%、ARB:45.8%、ACE阻害薬:16.0%、利尿薬11.4%、β遮断薬:9.7%)。これはα遮断薬に関して従来から処方の決め手となるエビデンスが少なかったのに加え、ALLHAT試験においてドキサゾシン群でクロルタリドン群より慢性心不全の発症率が有意に高かった報告5)がα遮断薬の処方に影響を及ぼしているものと思われる。
今回の発表においてドキサゾシンのUAR減少作用がベースライン時の処方薬に関わらず効果が認められたことは非常に興味深く、RA系抑制薬とCa拮抗薬の併用例に対しても12.3mmHgの早朝血圧の抑制と、5.0mg/gCrのUAR減少が認められた。また、この作用は微量アルブミン尿例においてより顕著であった。これまで処方の決め手となるエビデンスに乏しかったドキサゾシンではあるが、JMS-1試験の結果は治療中の高血圧症、とくに微量アルブミン尿を呈する例において投与を考慮する結果を導いたと言える。
以下、苅尾先生ご本人からコメントを頂戴した。
本研究の新規性は、家庭血圧ガイドに早朝血圧のみをターゲットとした高血圧治療の効果を検討した点にある。すなわち、本研究では、診察室血圧は全く考慮せず、早朝収縮期血圧が135mmHg未満に低下するまで、降圧薬の就寝前投与の用量を増量していった。結果として、早朝のみならず、診察室血圧や就寝時家庭血圧も低下し、いずれの血圧の低下程度も微量アルブミン尿の低下に関連していた。したがって、本研究からは早朝のみならず、24時間にわたる降圧が腎保護には重要であるといえる。
この微量アルブミン尿の低下度は、全体群ではわずかであるが、微量アルブミン尿を有する患者でより大きかった。その低下度はレニン・アンジオテン系(RAS)抑制薬と遜色ない。CKD患者ではRAS亢進が見られるだけでなく、交感神経活動の亢進も生じていることが報告されている。また、本研究対では、コントロール不良の早朝高血圧患者を対象としていることから、交感神経活動が亢進していることが推測され、α遮断薬をベースにした交感神経抑制が降圧ならびに腎保護により有効であったことが考えられる。
また、本研究で興味深かった点は、降圧度とは独立して、α遮断薬の使用が微量アルブミン尿の減少に関連していた点である。
6ヵ月後に血圧レベルがベースラインよりも上昇した群においてさえも、α遮断薬の使用により微量アルブミン尿が低下していた。このことは、体血圧の減少によらない、腎臓局所での血行動態の改善が微量アルブミンの減少につながったと考えられる。交感神経α受容体は輸入細動脈のみならず、輸出細動脈にも分布しており、α遮断薬により、輸出細動脈も拡張することにより、糸球体内圧が低下し、微量アルブミン尿の低下につながったものと考えている。
臨床的には、CKD患者ではRAS抑制薬が第一選択薬となるが、さらに、カルシウム拮抗薬や少量の利尿薬を加えてもコントロール不良の早朝高血圧を示す場合、交感神経抑制薬により、さらなる腎保護効果が期待できる。
(ケアネット 藤原健次)
1) Kario K et al:J Hypertens. 2008;26:1257-1265
2) Rachmani R et al:Nephron. 1998;80:175-182.