ナノミセルを使った効率的なゲノム編集法の開発に成功

提供元:ケアネット

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公開日:2021/04/06

 

 公益財団法人川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)の副主幹研究員、内田 智士氏(京都府立医科大学准教授)らの研究グループは、ナノミセルを用いたCRISPR/Cas9の送達手法を開発し、世界で初めてRNAを基盤としたマウス脳内でのゲノム編集に成功したことを3月10日付けのプレスリリースで発表した。本研究の成果は2021年3月4日にJournal of Controlled Release誌に掲載された。

 ゲノム編集技術は、遺伝子異常が原因の疾患に対して、ヒトの遺伝子を自由に改変することで異常が起こった遺伝子を修復し、永続的な効果が期待できる治療法である。その中でも2020年ノーベル化学賞を受賞したCRISPR/Cas9を用いた手法では、Cas9タンパク質とガイドRNA(sgRNA)を組み合わせることで、標的の遺伝子を認識し切断を行う。この手法では標的遺伝子ごとのタンパク質の設計は不要で、合成が容易なsgRNAの設計だけで切断箇所を自由に選択できるため、コストや手間を抑えることができる。

 Cas9タンパク質とsgRNAの導入方法としては、アデノ随伴ウイルスを用いてCas9タンパク質とsgRNAを作る遺伝子を生体に送る方法やCas9タンパク質/sgRNA複合体をそのまま生体に送る方法がある。しかし、前者は搭載できる遺伝子のサイズの制限や非特異的な遺伝子の切断が課題となり、後者は経済的に高価な点や大量製造が困難な点が課題となる。

 内田氏らの研究グループが開発した手法は、Cas9タンパク質のmRNAとsgRNAを1つのナノミセルに搭載して生体へ送るものである。mRNAをそのまま生体へ送ろうとすると細胞外で分解されてしまったり炎症反応を起こしてしまったりすることがあるため、ポリエチレングリコールとポリカチオンで構成されたナノミセルにmRNAとsgRNAを同時に搭載することで、安全かつ容易に生体に送達することができるようになったという。さらに、この手法では、搭載できる遺伝子サイズに制限がないほか、Cas9タンパク質の発現が一過性であるため非特異的切断も起こりにくいと考えられる。

 今回の研究では、遺伝子編集が起こった場合にのみ特定の色の蛍光タンパク質が発現するような遺伝子改変マウスを用いて、脳内の遺伝子編集が起こったかどうかを蛍光観察によって評価した。その結果、Cas9タンパク質のmRNAとsgRNAを搭載したナノミセルをマウスの脳内に投与することで、神経細胞やアストロサイト、ミクログリアといった広範囲な細胞種で蛍光が確認され、遺伝子編集が行われたことが示された。本研究の成果について、内田氏は「今後はハンチントン病やアルツハイマー病といった神経系難治疾患への応用が期待される」と語った。

(ケアネット 生島 智樹)