糖尿病では、合併症として腎障害、網膜症、末梢神経障害などは注意すべき疾患としてよく知られている。しかし、歯周病など口腔疾患はあまり注意喚起されることが多くない。食事療法で大切な入り口となる口腔内疾患と糖尿病の関係について、第64回日本糖尿病学会年次学術集会(会長:戸邉 一之[富山大学])の教育講演で成瀬 桂子氏(愛知学院大学歯学部内科学講座)が、「糖尿病併存疾患としての歯周病」をテーマに講演を行った。
糖尿病と歯周病は双方向の関係
歯周病とは、歯周組織に原発し、歯周組織を破壊する疾患の総称であり、歯肉炎と歯周炎に大別される。歯肉炎は、歯頚部に付着する細菌の塊であるプラーク(歯垢)により引き起こされる。歯肉炎は歯肉組織に限局した炎症であり、可逆性であるが、歯周炎は歯肉に初発した炎症が、セメント質、歯根膜および歯槽骨などの深部歯周組織に波及した慢性炎症である。
歯周病の検査は、口腔内の衛生状態、炎症程度、歯周ポケットの状態が診察され、歯周病の基本的な治療として、「プラークコントロール」「スケーリング」「かみ合い調整」が行われ、さらに進行した場合には歯周外科治療として「組織付着療法」「切除療法」「歯周組織再生療法」などが行われる。こうした治療を行って病変の進行が休止しても歯周ポケットが残存する場合、歯周組織を長期にわたり病状安定化させるために行われるのが、サポーティブペリオドンタルセラピーであり、治療により治癒した場合でも、その状態を長期間維持するためにメインテナンスが行われる。
糖尿病と歯周病の関係は双方向性である。糖尿病患者では1型糖尿病、2型糖尿病にかかわらず歯周病の発症および罹患率が増加していることが確認されている。ドイツにおける報告では、とくに歯周病が進行する群はHbA1c7%以上であった。
「血糖コントロールは歯周病を改善するか」という研究では、歯肉の炎症は改善するが、歯周ポケットの深さは改善しないという結果だった。糖尿病で歯周病が重症化しやすい要因としては、歯肉組織微小血管障害、歯周結合組織の代謝異常、酸化ストレス、免疫機能の低下などがあげられる。逆に、「歯周病があると糖尿病になりやすいか」という研究では久山町研究などから関連性は認められたほか、歯周の炎症改善を介して血糖コントロールも改善する可能性があることが示唆された。
年齢、歯間の不衛生、HbA1c7%以上は歯を失うリスク
糖尿病患者に歯周病を合併する問題点として、歯周病が動脈硬化を発症・進展させる可能性を指摘する。動物実験では、歯周病原細菌の投与で動脈硬化が促進した例、および歯周炎の惹起が、動脈に初期炎症を誘導することを説明した。
また、2型糖尿病における歯周病重症度と糖尿病腎症発症頻度の相関については、HbA1c6.5以上ではハザード比で4倍を超えることが台湾の研究で明らかになった。そして、歯周病重症度と死亡率の関係について、歯周病が重症なほど死亡率が高く、重症の歯周病では、虚血性心疾患による死亡とともに糖尿病腎症による死亡も多いことが明らかになった。
「糖尿病合併症の実態とその抑制に関する大規模観察研究(JDCP study)」におけるベースライン時の口腔所見では、歯数が20歯未満になるオッズ比が高い項目として、1型糖尿病では「年齢60歳以上」「歯間清掃用具未使用」「HbA1c7%以上」などが、2型糖尿病では「年齢60歳以上」「歯間清掃用具未使用」「定期歯科検診なし」「糖尿病罹病歴10年以上」「HbA1c 8%以上」などが報告された。以上から重要なこととして「良好な血糖コントロール」「定期的な歯科受診」「歯間清掃用具の使用」が示唆された。
『糖尿病診療ガイドライン2019』やこれまでの知見より、糖尿病と歯周病について
(1)定期的な歯科受診と歯間清掃用具の使用を勧める
(2)1型・2型糖尿病患者は歯周病発症リスクが高いこと
(3)良好な血糖コントロールを目指すことにより歯周組織の炎症の改善が期待できる
(4)歯周病治療は、慢性炎症の改善を介して糖尿病合併症の発症・進展を抑制する可能性があること
(5)糖尿病患者は全員、歯周病治療を受けるべきであること
が提唱された。
最後に、糖尿病患者の医科歯科連携では、「糖尿病連携手帳」を活用し、医師やほかのスタッフが積極的に患者の診療にかかわることを期待して講演を終えた。
(ケアネット 稲川 進)