アストラゼネカと小野薬品工業は、選択的SGLT2阻害剤ダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)が2021年8月25日に2型糖尿病合併の有無にかかわらず、わが国で初めて「慢性腎臓病(CKD)」の効能または効果の追加承認を取得したことを受けて、「国内における慢性腎臓病治療の新たなアプローチ -SGLT2阻害剤フォシーガの慢性腎臓病治療への貢献-」をテーマにメディアセミナーを開催した。
セミナーでは、今回の追加承認のもとになった“DAPA-CKD STUDY”などの概要などが説明された。
人工透析の医療費は年1.6兆円
セミナーでは、柏原 直樹氏(川崎医科大学 腎臓・高血圧内科学 教授)を講師に迎え、「腎臓病の克服を目指して」をテーマに講演が行われた。
慢性腎臓病(CKD)の推定患者は、全国で約1,300万人と推定され、2017年時点での慢性透析患者数も約33万4,000人に上り、年間1.57兆円に上る医療費が人工透析に使用されている。CKDは加齢とともに増加し、高齢化社会の日本では腎機能症障害への対応は今後も大きな課題となる。
そこで、近年、腎疾患対策の推進のために厚生労働省は、全体目標として「CKDの早期発見・診断、良質で適切な治療の実施と継続」「重症化予防」「患者のQOLに維持向上」を掲げ、成果目標として2028年までに新規透析導入患者数を35,000人以下に減少させるという目標を謳っている。
DAPA-CKD試験の概要
こうしたCKDの克服に期待されているのが治療薬である。今回、CKDへの効能または効果の追加承認を取得したダパグリフロジンは、DAPA-CKD試験でその効果が検証された。
本試験は、国際多施設共同試験として18歳以上の慢性腎臓病患者4,304例(うち日本人244例)を対象に行われ、対象患者をダパグリフロジン10mg群とプラセボ群に1:1に無作為に割付、標準治療に追加して1日1回経口投与した。主要複合エンドポイントは「eGFRの50%以上の持続的な低下、末期腎不全への進展、心血管死または腎臓死」のうち、いずれかのイベント初回発現までの期間で実施された。
その結果、32ヵ月時点での各エンドポイントの成績は以下の通りだった。
・主要複合エンドポイントの累積発現率がプラセボ群で約20%だったのに対し、ダパグリフロジン群では約12%であり、ハザード比は0.61(95%CI:0.51、0.72)だった。
・腎複合エンドポイントの累積発現率がプラセボ群が約17%だったのに対し、ダパグリフロジン群は約9%であり、ハザード比は0.56(95%CI:0.45、0.68)だった。
・心血管複合エンドポイントの累積発現率がプラセボ群が約7%だったのに対し、ダパグリフロジン群は約6%であり、ハザード比は0.71(95%CI:0.55、0.92)だった。
・全死亡までの期間の累積発現率がプラセボ群が約8.5%だったのに対し、ダパグリフロジン群は約5.5%であり、ハザード比は0.69(95%CI:0.53、0.88)だった。
また、サブグループ解析では、「糖尿病の有無」、「心不全の有無」、「腎機能低下例」、「IgA腎症」が行われた。
安全性としてダパグリフロジンでは、2,149例中で重篤な有害事象は594例(27.6%)が報告され、急性腎障害、肺炎、心不全、急性心筋梗塞、末期腎不全の順で多かったが、顕著な有害事象はなかった。
最後に柏原氏は、今回の適応拡大について私見としながら「ようやくわが国も世界に追いついた。今後既存薬の見直しの機運が上がる可能性がある。“DAPA STUDY”によりさらなる疾病の克服や患者への希望の共有がなされることを望む」と述べレクチャーを終えた。
(ケアネット 稲川 進)