新型コロナウイルス感染症(COVID-19)よる「巣ごもり生活」は3年目に入った。新型コロナで依然として不自由な日常生活が続く中で、運動不足や偏った食生活により「お通じに問題あり」という人が増えているという。
EAファーマ株式会社は、中島 淳氏(横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授)を講師に迎え、便秘症がもたらすリスクとその治療の重要性について、講演を行った。
コロナ禍で排便状況など半数以上が「変わった」と回答
中島氏は、「巣ごもり生活で注意すべき国民病、便秘症が招く思わぬリスクと治療の重要性」をテーマに、便秘症に関する最新の知見、排便の仕組み、便秘の原因、治療などについてレクチャーを行った。
新型コロナウイルスによる外出自粛と便秘について、あるアンケート調査によれば「排便やうんちの状態が変わった」と回答した人は半数以上にのぼった。また、近年の厚生労働省の調査では、若年層では女性に多く、70歳以上では男女ともに便秘の有訴者率が増加しており、高齢者になるほど便秘の比率が増えている
1)。
そして、最近の研究では便秘症と生存率に関連があることも指摘され、とくにトイレの中で非外傷性心停止なども約10%報告され
2)、高齢者では「いきむ」ことで血圧が上昇しやすいこと、排便回数が少ないと脳卒中の死亡リスクが高いこと、電解質異常が慢性腎臓病とも関連するなど生命予後に影響することが指摘されている。その一方で、「患者側にはこうした情報はあまり伝わっておらず、便秘症が軽くみられていることに問題がある」と中島氏は指摘する。
排便回数だけでなく、便の形状も大事
次に排便について触れ、満足度の高い排便とは「迅速」かつ「完全」であることが大切であり、理想的な排便姿勢は前かがみに斜め35度、背筋を伸ばし腹筋にだけ力をいれ、両肘は太ももの上に置くのがよいとされている。また、足元に台など置くとより効果がある。同様に排出した便の形状も重要で、ブリストル便形状スケールで3または4の正常便(バナナ状)が望まれ、短時間(30秒程度)にすっきりとこうした便が排出されることが健康な状態となる。
便秘などに「お通じホルモン」の胆汁酸が関係
現在診療で使用されている「慢性便秘症診療ガイドライン 2017」によれば、便秘症とは「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義している。その診断基準としては、「(排便の1/4超の頻度で)強くいきむ必要/兎糞状便または硬便である/残便感を感じる/直腸肛門の閉そく感や排便困難感/摘便などの排便介助が必要、自発的な排便回数が週に3回未満」のうち2項目以上を満たした場合を便秘症と診断する。また、慢性便秘症では、「6ヵ月以上前から症状があり、最近3ヵ月間は便秘症の基準を満たしていること」を診断基準としている。
とくに高齢者では、腸管運動に関与する神経変化や生活環境の変化などにより便秘症になりやすく、便意も鈍感になる傾向にある。そして、便滞留により便が硬化、排便困難となることで便意が低下し、さらに滞便をまねくという負のスパイラルになることが危惧されている。そのため、便秘症の治療では、大腸運動の状態、便意を確認することも重要になる。
そのほか最近の研究で便秘などに胆汁酸が関係していることが明からとなり、大腸運動や大腸の水分分泌の促進などを促す、「お通じホルモン」であることがわかってきている。実際、便秘症患者は健康な人と比較し、便中胆汁酸量が少ないことが報告されている
3)。
便秘症治療、刺激性下剤は頓用で使う
便秘の治療では、まず「運動、食事、排便習慣」の生活習慣改善が求められる。しかし、それでも便秘状態が改善しない場合には、緩下剤(マンナなど)、強下剤(センナなど)、強強下剤(酸化マグネシウムなど)が症状に応じて使用される。
治療の際の注意点として、酸化マグネシウムの使用につき先述のガイドラインでは、「慢性便秘症に有効としながらも、定期的なマグネシウム測定を推奨する」とし、推奨の強さは「1(強い実施推奨)」、エビデンスレベルも「A(質の高いエビデンス)」となっており、高齢者では高マグネシウム血症を来す可能性が高いとされる。
ほかにも刺激性下剤の使用について同ガイドラインでは、「慢性便秘症に有効としながらも、頓用または短期間の投与を提案する」とし、推奨の強さは「2(弱い実施推奨)」、エビデンスレベルも「B(中程度の質のエビデンス)」となっており、連用での耐性、習慣性、依存性への問題回避が記され、適正使用が求められている。
便秘症の診断、最近ではエコーで直腸の実施も
最後に便秘症の診断法について触れ、通常、便秘症では直腸指診が必要とされるが、最近では腹部エコーによる直腸へのエコーで慢性便秘症の診断も実施されている(なお直腸へのエコーは保険適用外)。これにより便秘診断のみえる化や患者への最適な医療が行われつつあるという。
最後に中島氏は、「現在ではスマホサイズのポケットエコーを使用すれば、在宅や往診で診療もでき、最適な便秘治療ができる時代が到来している」と語りレクチャーを終えた。
(ケアネット 稲川 進)