「糖尿病」の名称変更、医師の6割が反対/医師1,000人アンケート

提供元:ケアネット

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公開日:2022/11/16

 

 これまで、病名とその患者の関係性を考えたことはあるだろうか? 近年、糖尿病患者が社会的にスティグマ(偏見)を持たれていることを受け、日本糖尿病協会のアドボカシー活動の1つとして、医療現場の言葉の見直しが検討されている。そのなかに、『糖尿病』という疾患名も含まれており、将来、疾患名が変更されるかもしれない。そこで、ケアネットは会員医師1,028人に対し、緊急のアンケート調査を実施した。

糖尿病の名称変更は年齢問わず、半数以上が“反対”

 Q1「『糖尿病』の名称変更について、賛成ですか?反対ですか?」対し、賛成は37%、反対は63%であった。年齢による差はとくに見られず、理由は以下のとおり。

<賛成>
・糖尿病自体が病態を的確に示した言葉ではないから(20代、臨床研修医)
・若年発症の1型糖尿病患者、とくに女性患者で自身の疾患名についてコンプレックスを抱いている例が多いため(30代、糖尿病・内分泌内科)
・心血管イベントを想起させるような名前にしたほうがいいと思うから(40代、リハビリテーション科)
・SGLT2阻害薬の普及で、ますますオシッコの甘い感が強調されているので(50代、放射線科)

<反対>
・尿という言葉が持つ負のイメージへの懸念が、名称変更のデメリットを上回ると思えない(30代、小児科)
・理由の1つに挙げられた「住宅ローンや生命保険に入れない」というのは名称変更で解決できる問題ではない。一般に浸透しているし、名称そのものが悪印象なわけではないと思う(40代、循環器内科/心臓血管外科)
・患者に振り回されるのもどうかと思う。そんなこと言いだしたらキリがないんじゃないでしょうか。新しい病名にもよるけれど(50代、眼科)
・すでに広く認知されている。名前を変えることで、有病者の受診行動が変わるとは思えない(60代、腎臓内科)

 などが挙げられた。賛成意見では「患者が望むなら」という患者視点でのコメントが多く、一方で反対意見には「名称変更が偏見払拭にならないのでは」という指摘が多かった。

病気の名称変更問題、“尿”がダメなら“臭”もダメでは…

 Q3で糖尿病以外に名称変更が望まれる疾患を尋ねたところ、『重症筋無力症』『悪性貧血』などが挙げられた。これらの病名に共通するのが、重症、悪性というマイナスイメージの表現が付いている点で、これにより患者の不安が強まったという経験をしたと複数名が答えていた。同様に「『〇〇奇形』も負のレッテルを貼られている印象がある」との回答が寄せられた。このほか、「病名の文字が不快と感じるのであれば、腋臭症も変更に値するのではないか。“尿”が負のイメージであるとするのであれば“臭”がより負のイメージが強い」という意見もあった。

 糖尿病の名称変更問題は“患者だけ”“医療者だけ”の問題ではないことは周知の事実である。今回のアンケートでは反対意見が多かったものの、患者の病名によるスティグマを軽視しているのではなく、病名を変えるさまざまなリスクに基づき意見していることが明らかになった。

 また、患者1,087人を対象とした日本糖尿病協会のアンケート調査「糖尿病の病名に関するアンケート」の結果も、単純に名称変更を訴えるものではなく、病名変更を願ったり、偏見や誤解に悩んだりしている患者がいることを医療者に理解して欲しいという思いが込められている。

 医師と患者のアンケート調査1)2)から双方の意見が出揃った今、お互いの意見を尊重し議論が進んでいくことを願う。
1)回答者:全医師の0.3%(令和2年12月31日現在の全国の届出「医師」は33万9,623人)
2)回答者:糖尿病有病者の0.01%(糖尿病が強く疑われる者[糖尿病有病者]は約1,000万人:平成28年「国民健康・栄養調査」の結果より)

糖尿病の名称変更についてのアンケート詳細を公開中

『「糖尿病」の名称変更、医師は賛成?反対?』

<アンケート概要>
目的:日本糖尿病協会が「糖尿病」の名称変更を検討する方針を示したことを受け、医師の意見を調査した。
対象:ケアネット会員医師1,028人
調査日:2022年11月10日
方法:インターネット

(ケアネット 土井 舞子)