2020年の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)流行以前にも新型インフルエンザ(H1N1)や重症急性呼吸器症候群(SARS)の感染拡大が問題視され、その度にコクランレビューがなされてきた。今回、新型コロナ流行に関する研究を盛り込み更新されたシステマティックレビューがThe Cochrane Database of Systematic Reviews誌2023年1月30日号に掲載された。
コクランレビューではマスクの効果について不確実性
オックスフォード大学のTom Jefferson氏らは急性呼吸器感染症に影響するウイルスの拡散阻止または軽減のための身体的介入の有効性を評価することを目的に論文データベース(CENTRAL、PubMed、Embaseほか)および2022年10月に登録された2試験から、後方引用と前方引用によるシステマティックレビューを行った。論文の選択基準として、呼吸器系のウイルス感染を防ぐための物理的介入(入国時スクリーニング、隔離/検疫、物理的距離、個人保護具、手指衛生、マスク、眼鏡、うがい)を調査したランダム化比較試験(RCT)およびクラスターに関するRCTを検討した。
急性呼吸器感染症に影響するウイルスの拡散阻止または軽減のための身体的介入の有効性を評価したコクランレビューの主な結果は以下のとおり。
・今回のコクランレビューには、既存の67件に最新のRCTとクラスターに関するRCT(登録者61万872例)11件を加え、78件を検討した。新たな試験のうち、6件は新型コロナ流行時に実施されたものだった。
・多くの研究は、インフルエンザが流行していない時期に実施され、いくつかの研究は2009年の新型インフルエンザ流行時に実施されていた。また、そのほかの研究は2016年までのインフルエンザの流行期に実施されていたため、多くの研究は新型コロナ流行時と比較して、下気道のウイルス感染が拡大している時期に実施されていた。
・分析した研究の置かれた環境はさまざま(郊外の学校、高所得国の病棟、低所得国の都心部など)で、多くの研究では介入群のアドヒアランスが低く、RCTとクラスターに関するRCTのバイアスのリスクは非常に高いか不明確であった。
・医療用/サージカルマスクとマスクなしを比較した12件(うち10件はクラスターRCT、医療従事者による2件と地域での10件)によると、マスクを着用していない場合と比較し、地域社会でのマスク着用はインフルエンザ様疾患(ILI)/新型コロナ様疾患の転帰にほとんどあるいはまったく差がなく、試験9件(27万6,917例)のリスク比[RR]は0.95(95%信頼区間[CI]:0.84~1.09、証拠の確実性:中程度)だった。また、試験6件(1万3,919例)のRRは1.01(95%CI:0.72〜1.42、証拠の確実性:中程度)だった。
・手指衛生に関する試験19件(うち9件の5万2,105例)によると、手指衛生の介入はコントロール(介入なし)と比較し、急性呼吸器感染症の患者数が相対的に14%減少した(RR:0.86、95%CI:0.81~0.90、証拠の確実性:中程度)。
・ガウンと手袋、フェイスシールド、入国時スクリーニングに関するRCTは見つからなかった。
ただし、研究者らは「試験における偏りのリスクが高く、結果の測定値にばらつきがあり、研究時の介入群でのアドヒアランスが比較的低いため、確固たる結論を導き出すことはできなかった。そのため、マスクの効果については不確実性が残っている。エビデンスの確実性が低~中程度であることは、効果の推定値に対する信頼性が限られていること、および実際の効果が観察された効果の推定値と異なる可能性があるため、複数の設定や集団におけるこれらの介入の多くの有効性、それに対するアドヒアランスの影響に対処する、適切に設計された大規模なRCTが必要」と記している。
(ケアネット 土井 舞子)