生物学的な老化の速度は、遺伝、環境、生活習慣などによって変化するといわれている。近年、DNAのメチル化に基づく生物学的老化の評価指標(GrimAge、PhenoAgeなど)が開発されているが、これらと老化の危険因子との関連の強さなどは明らかになっていない。そこで、上海交通大学のLijie Kong氏らは、メンデルランダム化解析を行い、修正可能な代謝関連因子(ウエスト周囲径、体脂肪率、CRP値など)、生活習慣(喫煙、アルコール摂取、昼寝など)、社会経済的因子(教育、収入)と生物学的老化の評価指標との関連を調べた。本調査結果は、The Journals of Gerontology:Series A誌オンライン版2023年3月4日号に掲載された。
老けやすい人の特徴は「肥満・喫煙・低学歴」
本研究グループは、修正可能な因子と老化の速度との関連を調べるため、メンデルランダム化解析を行った。修正可能な19個の代謝関連因子(BMI、ウエスト周囲径、体脂肪率、小児期の肥満、2型糖尿病、LDLコレステロール値、HDLコレステロール値、中性脂肪値、収縮期血圧、拡張期血圧、CRP値)、生活習慣(喫煙、アルコール摂取、コーヒー摂取、昼寝、睡眠時間、中・高強度の身体活動)、社会経済的因子(教育、収入)に関連する遺伝子変異について、欧州の最大100万人を対象としたゲノムワイド関連研究(GWAS)から抽出した。これらの遺伝子変異とGrimAgeおよびPhenoAgeとの関連は、欧州の28コホート、3万4,710人を対象に解析した。関連の大きさを調べるため、回帰係数(β)±標準誤差(SE)を求めた。なお、GrimAgeとPhenoAgeはいずれも生物学的老化の評価指標であるが、GrimAgeのほうが、死亡率との関連が強いことが知られている。
生物学的老化の評価指標であるGrimAge、PhenoAgeの変化に有意な関連のあった因子を以下に示す。
【GrimAgeに基づく老化の加速・減速関連因子】
〈老化を加速(β±SE[年])〉
1位:喫煙、1.299±0.107
2位:アルコール摂取増加、0.899±0.361
3位:ウエスト周囲径増加、0.815±0.184
4位:昼寝、0.805±0.355
5位:体脂肪率増加、0.748±0.120
6位:BMI上昇、0.592±0.079
7位:CRP値上昇、0.345±0.073
8位:中性脂肪値上昇、0.249±0.091
9位:小児期の肥満、0.200±0.075
10位:2型糖尿病、0.095±0.041
<老化を減速(β±SE[年])>
1位:教育年数が長い、-1.143±0.121
2位:世帯収入が高い、-0.774±0.263
【PhenoAgeに基づく老化の加速・減速関連因子】
〈老化を加速(β±SE[年])〉
1位:体脂肪率増加、0.850±0.269
2位:ウエスト周囲径増加、0.711±0.152
3位:BMI上昇、0.586±0.102
4位:喫煙、0.519±0.142
5位:CRP値上昇、0.349±0.095
6位:小児期の肥満、0.229±0.095
7位:2型糖尿病、0.125±0.051
<老化を減速(β±SE[年])>
1位:教育年数が長い、-0.718±0.151
著者らは、「本研究により、老化の危険因子と老化の速度に関する定量的なエビデンスが得られ、肥満に関する指標、喫煙、低学歴が老化へ大きな影響を及ぼすことが示された。この結果は、生物学的老化の速度を遅らせ、健康長寿を促進するために役立つだろう」とまとめた。
(ケアネット 佐藤 亮)