2008年9月3日、都内で大鵬薬品主催のオンコロジーセミナーが開催された。その中で聖路加国際病院 中村清吾氏、日本医科大学 芳賀駿介氏、坂元記念クリニック 坂元吾偉氏の3氏がそれぞれの立場で最新の乳がん診療の情報について解説した。
聖路加国際病院 ブレストセンター長 中村清吾氏
乳がんの治療はがん細胞の増殖メカニズムが解明されTargeted Therapyへ移行した。中でもハーセプチンは乳がんの20%に見られるHER2陽性症例の標準治療である。加えて、術後の患者でも半数の再発を予防することが報告され、本邦でも本年2月から術後補助療法の適応が認められている。
一方、乳がん学会でも班研究を実施しているTriple Negative乳がん(ER感受性-、PgR感受性-、HER2-)では、通常の抗がん剤が無効という症例もあり課題が残る病型である。そのような中、血管新生阻害薬であるアバスチンは再発乳がんの再発抑制に関し良好な結果が報告されるなど、Triple Negative乳がんのキードラッグとしても期待される。日本での乳がんへの保険適応も早期に望まれる。その他、新たな分子標的治療薬ラパチニブなどが登場する。ホルモン感受性、HER2、血管新生阻害薬、他の分子標的治療薬など選択肢が増え、個別化治療はより細密化してくると考えられる。
また、化学療法適応の指標として21種の遺伝子の組み合わせにより再発リスクを評価するOncotypeDXという遺伝子検査法について紹介した。この検査は、同じステージの乳がんでもリスクの重度度を識別し、化学療法の実施の意思決定ツールとなる。米国で爆発的に普及、保険未承認ではあるが日本でも幾つかの先進施設で用いられている。
日本医科大学 乳腺科 芳賀駿介氏
乳がんにおけるリンパ節郭清は、その後の治療の指標となる。しかし、郭清によるリンパ浮腫、上肢内側知覚障害、術後のリハビリテーションなど患者さんへの負担とともに入院期間も増加する。
そこで不要な腋下リンパ節郭清を省略するためセンチネルリンパ節生検が実施されるようになってきている。乳がん学会認定施設でのアンケートの結果、87%の施設がセンチネルリンパ生検を実施、行っていない施設でも殆どが実施したいと考えていることがわかった。センチネルリンパ節生検の実施により患者さんの身体的負担の軽減と医療費の削減の双方が実現できる。この手段を保険承認させるため乳がん学会では多施設協同試験を実施し、試験結果を厚生労働省に提出する。中間報告は9月の乳がん学会にて報告予定である。
坂元記念クリニック 乳腺病理アカデミー 坂元吾偉氏
乳がんの確定診断は病理組織診断である。実は、治療を受ける前に本当に乳がんなのかを確認することが重要であるともいえる。
乳腺病理には経験が必要である。また、他のがんとの細胞異型の尺度の違い、乳管腺腫などの新たな疾患概念、組織型だけでも39、亜型も含めると100以上という病型の多彩さなどから乳腺病理は非常に難しいものであるといえる。最近は針生検の普及から検体が小さくなり更に難易度が上昇している。
しかし、日本の病理医は米国の1/5というのが現状。病理専門医のいない施設は多く見られ、患者さんだけなく、臨床医さらには病理医も困惑している状況である。乳腺病理医の確保が乳がん治療における非常に重要な課題といえる。経験ある病理医であればリスクを分けることができる。実際、St.Gallen Conferences 2007での7つのリスクカテゴリーのうち6つは病理診断の結果で明らかになるものであり、病理医の適切な診断により適切な治療が可能になる。
そのような中、坂元氏は坂元記念クリニックを設立した。08年4月から病理診断科が標榜可能になったため、乳腺病理を唯一標榜。精度の高い乳腺病理診断を目指し、臨床医病理医に正しい情報を提供することを目的とする。坂元氏は、乳腺病理診断が正しく行われることは社会全体にとっても有益であると考えると語った。
《参考リンク》
第16回日本乳癌学会総会
http://www.jbcs.gr.jp/meeting/soukai.html坂元記念クリニック
http://www.a-bp.net/index.html(ケアネット 細田雅之)