ハイパーサーミア診療ガイドラインで各がん種の治療推奨度を明確に

提供元:ケアネット

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公開日:2023/08/21

 

 『ハイパーサーミア診療ガイドライン』の初版が発刊された。今回、ガイドライン作成委員会委員長の高橋 健夫氏(埼玉医科大学総合医療センター放射線腫瘍科)に実臨床におけるハイパーサーミアの使用経験や推奨されるがん種などについて話を聞いた。

ハイパーサーミアのガイドラインでエビデンスを示す必要があった

 ハイパーサーミアとは39~45℃の熱を用いた温熱療法のことで、主に放射線治療や化学療法の治療効果を高める目的で用いられている。その歴史は意外にも古く、1980年代に放射線治療の補助療法として導入、1990年代には電磁波温熱療法として保険収載され、その臨床実績は30年以上に及ぶ。本治療は、生体では腫瘍のほうが正常組織よりも温度上昇しやすい点を応用した“43℃以上での直接的な殺細胞効果”が報告されているほか、抗がん剤の細胞膜の透過性亢進、熱ショックタンパク質を介した免疫賦活などの生物学的なメリットなどが示されている。しかし、どのような患者に優先的に勧めるべきか明確に示した指針は認められない、実施可能施設の少なさ、専門的な知識や経験を有するハイパーサーミア治療医が限れているなどの点から認知度がまだまだ低い治療法である。そこで日本ハイパーサーミア学会では2017年にガイドライン作成委員会が発足し、約7年の時を経てガイドラインの発刊に至った。これに対し高橋氏は「治療内容、適応などに関して認知度が低く、時に民間療法との区別がつきにくいイメージがあり、ハイパーサーミアの定義ならびに各がん種に対するエビデンスをガイドラインで示す必要があった。欧州では標準治療として組み込まれているものの、2000年代をピークに臨床研究の数がなかなか増えず、最新のエビデンスが少ない点は本書でも難点になっている」とコメントした。

 ハイパーサーミアは“電子レンジ”のような原理を用いてラジオ波で細胞内部を温めることが重要となるため、温度上昇の得やすい臓器・部位かどうかが判断材料の1つになり、これは直腸・膀胱・子宮などの消化管や生殖器で効果が得られやすい理由の1つである。今回のハイパーサーミア診療ガイドライン作成にあたり、各学会のガイドラインと整合性を取るためにさまざまな学会と調整したと同氏は話す。たとえば、昨年発刊された『膵癌診療ガイドライン2022年版 第6版』のCQでは、現時点では推奨なし(エビデンスの強さ:非常に弱い)の記載ではあるが、導入化学療法を施行した後に行われる化学放射線療法にハイパーサーミアを加えるか否かのランダム化比較試験が施行されており、その報告1)が今注目されている。また、頭頸部がんや放射線治療に抵抗性である肉腫などでもハイパーサーミアの効果が期待できる。一方、「肺は空気を含み他臓器に比べ温まりにくい問題がある」とハイパーサーミア治療が効果的な臓器、効果が得にくい臓器があることを示した。

ハイパーサーミア診療ガイドラインに腹膜播種に対する抗腫瘍効果

 また、今回の注目すべき点として、同氏は「これまでは再発治療への対応が多く、初回治療から用いることができる選択肢を示した点は大きい」とし、「予後不良の腹膜播種の術中に行う腹腔内化学療法において、ハイパーサーミアは灌流液を41~43℃に加温して抗腫瘍効果を高める。腹膜播種は化学療法の感受性が低かったが、加温により長期予後が改善されている」と話した。

 ハイパーサーミア診療ガイドラインのクリニカルクエスチョン(CQ)は以下のとおり。

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CQ1 頭頸部がんに対してハイパーサーミアは推奨されるか?
CQ2 乳がん局所・領域リンパ節再発に対する放射線治療にハイパーサーミアの併用は勧められるか?
CQ3 食道がんに対してハイパーサーミアは推奨されるか?
CQ4 非小細胞がんに対してハイパーサーミアは推奨されるか?
CQ5 膵がんに対してハイパーサーミアは推奨されるか?
CQ6 直腸がんに対してハイパーサーミアは推奨されるか?
CQ7 膀胱がんに対してハイパーサーミアは推奨されるか?
CQ8 子宮頸がんに対してハイパーサーミアは推奨されるか?
CQ9 悪性黒色腫に対して放射線治療とハイパーサーミアの併用療法は推奨されるか?
CQ10 軟部肉腫に対してハイパーサーミアは推奨されるか?
CQ11 腹膜播種に対してハイパーサーミアは推奨されるか?
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 患者さんへのメリット・デメリットについては、「全身影響が少ないので副作用も少なく済む。ただし、本治療は温熱抵抗性が生じるために1回/週のペースで実施する。放射線の照射前後などのタイミングは問わず、治療になるべく近い日程で加温することが推奨される。そして、保険適用のしばりがない点などは患者さんへのメリットになる。デメリットには、認定施設数が少ない点」を挙げ、「本書の発刊を好機とし、国内での導入施設数を増やし国内の多施設共同研究を進めていきたい」と述べた。

 最後に、「ハイパーサーミアの効果はさまざまな治療に味付けをする、いわば引き立て役である。将来的には本治療の免疫賦活効果が免疫チェックポイント阻害薬などとの併用によって好影響をもたらすのではないか」と将来性を語った。

 なお、9月8~9日に神奈川県の伊勢原市民文化会館にて日本ハイパーサーミア学会第40回大会が開催され、シンポジウムでも本書に関する話題を取り上げる予定だ。

(ケアネット 土井 舞子)