「乳房再建」という言葉自体の一般的な認知度はまだまだ低く、また、米国や韓国と比較して日本における乳房再建率は低いといわれている。そこで、アッヴィ合同会社アラガン・エステティックスは2023年9月27日、乳房再建について、治療の一環のみならず、昨今注目度が高まっている「アピアランスケア」の選択肢の1つとしての側面をより広く周知するために、メディア向けセミナーを開催した。
セミナーでは、3名の演者が、乳がん罹患者を対象としたアピアランスケアに関する調査結果を紹介するとともに、各専門家による乳房再建の治療現場の動向や、乳がん経験者によるアピアランスケアの体験談等を解説した。
患者の不安を安心に変え、社会につなぐ「アピアランスケア」
アピアランスケアとは、「医学的・整容的・心理社会的支援を用いて、外見の変化を補完し、外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケア」である。このアピアランスケアの実態として、がん研有明病院の片岡 明美氏(乳腺センター 乳腺外科医長/トータルケアセンター サバイバーシップ支援室長・地域連携室長)は、アラガンとNPO法人エンパワリング ブレストキャンサー(E-BeC)が共同で実施した「乳がん罹患者を対象としたアピアランスケアに関する調査」の結果を紹介した。調査では、アピアランスケアについて「知っている」と回答した人の割合は21%であった。また、乳がんに罹患してから気になった外見の変化について、約半数の人が「手術による傷痕」、約3割の人が「手術による乳房切除(全摘)」「手術(部分切除)による胸の変形」と回答したにもかかわらず、外見の変化に対して乳房再建術を受けた人は1割未満だった。片岡氏は、「患者の乳房再建の認知率が低いことに加え、中には乳房再建のために仕事を休むことが言いづらい、という方もいる。社会としても乳房を再建することを受け入れられるよう、情報発信が大切だと感じている」と述べた。
乳房再建術は年齢にかかわらず必要とされる
岩平 佳子氏(ブレストサージャリークリニック院長)は、乳房再建術における実症例を紹介し、人工物による乳房再建のメリットを語った。現場の動向については、ブレストサージャリークリニックにおける乳房再建術患者の年代別割合を紹介し、「40~60代の方が多いことは、乳がんの好発年齢から考えると当然ではあるが、注目すべきは70歳以上でも乳房再建術を受ける方がいることだ。高齢者における乳房再建の理由の多くは温泉と介護であり、とくに孫やパートナーと温泉に行く際に外見を気にする方は少なくない。乳房再建は決して若年層だけのものでなく、年齢や地域、社会的状況に関係なくQOLの向上に非常に重要なものだ」と強調した。
乳房再建術におけるハードルとは
真水 美佳氏(エンパワリング ブレストキャンサー[E-BeC]理事長)は、乳房再建術を受けた自身の経験から、現在はE-BeCで乳房再建術の正しい理解と情報を届ける活動を行っている。E-BeCの調査によると、乳房再建術におけるハードルの1つに地域格差があり、首都圏と比較して地方では「近くに乳房再建術が可能な施設がない、または選択肢が少なく不本意な術式になってしまう」ことから、「社会的に乳房再建に対する認知度・理解度が低く、再建手術を受ける機会が少ない」という課題がうかがえる。真水氏は、「乳房再建術が保険適用になって10年以上経過しているにもかかわらず、いまだそのことを知らない患者が存在する。2013年から実施しているアンケート調査結果からも、地域格差や周囲の無理解について改善されていない。アピアランスケアに向けて、社会全体の理解の向上と医療の均一化が重要だ」と述べた。なお、E-BeCは設立以来、
ウェブサイトからの情報発信に加え、年に2~3回のセミナーや月に1回の乳房再建ミーティング(現地/オンラインによるハイブリッド)を開催しているという。
メディアによる情報発信も重要
認知度が低い乳房再建について、情報格差により知らないままになっている患者を少しでも減らせるような取り組みが重要である。医療従事者だけでなくメディアにおいても、地道に広く周知していくことで、「アピアランスケア」としての乳房再建という情報を患者に届けることが期待される。
(ケアネット 寺井 宏太)