HER2陽性進行乳がん患者の1次治療として標準的なHPD(トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセル)療法は、高齢患者では有害事象により相対用量強度を維持できないケースやQOLが損なわれるケースがある。そのため、毒性は低く、有効性は劣らない高齢者における新たな治療オプションが求められる。国立国際医療研究センター病院の下村 昭彦氏は、HPD療法とトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を比較した第III相HERB TEA試験(JCOG1607)の結果を、サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2023)で報告した。
・対象:65歳以上のHER2陽性進行乳がん患者(転移乳がんに対する治療歴なし、ECOG PS 0~2[75歳以上は0~1])
・試験群(T-DM1群):T-DM1(3週間間隔で3.6mg/kg、増悪まで) 73例
・対照群(HPD群):トラスツズマブ(6mg/kg、初回8mg/kg)、ペルツズマブ(420mg、初回840mg)、ドセタキセル(3週間間隔で60mg/m2、増悪まで) 75例
・評価項目:
[主要評価項目]全生存期間(OS)、
[副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、累積乳がん特異的死亡率、奏効率、安全性など
主な結果は以下のとおり。
・2018年1月~2023年3月に148例が登録された(データカットオフ:2023年6月15日)。
・ベースラインにおける患者特性は両群でバランスがとれており、年齢中央値はT-DM1群72歳vs.HPD群71歳、PS 0は70% vs.73%、ホルモン受容体陽性は55% vs.51%、stageIVは66% vs.65%、脳転移ありは0% vs.3%、内臓転移ありは66% vs.65%であった。
・主要評価項目であるOSについて、HPD群に対するT-DM1群の非劣性は示されなかった(ハザード比[HR]:1.263、95%信頼区間[CI]:0.677~2.357、片側p=0.95322)。
・PFS中央値はT-DM1群11.3ヵ月vs.HPD群15.6ヵ月であった(HR:1.358、95%CI:0.907~2.033、p=0.1236)。
・Grade3以上の有害事象は、T-DM1群34.7%、HPD群56.8%で発現した。HPD群ではとくに白血球減少(0% vs.26.0%)、好中球減少(0% vs.30.1%)、下痢(0% vs.12.2%)、疲労(5.6% vs.21.6%)が多くみられた。
下村氏は、「HPD療法に対するT-DM1のOSおよびPFSにおける非劣性は示されず、HPD療法は今後もHER2陽性進行乳がん患者の1次治療として、年齢を問わず標準治療となる。しかし有害事象の頻度はT-DM1と比較して高く、高齢者機能評価結果を含めた詳細な解析によって、T-DM1による治療が適している患者群について検討していく必要がある」と結論付けた。
(ケアネット 遊佐 なつみ)