尿中の黄色色素としてウロビリンが同定されているが、この発見から125年以上の間、ウロビリンの産生に関与する酵素は不明とされていた。しかし、米国・メリーランド大学のBrantley Hall氏らの研究グループが腸内細菌叢由来のビリルビン還元酵素(BilR)を同定し、この分子がビリルビンをウロビリノーゲンに還元し、ウロビリノーゲンが自然に分解されることで尿中の黄色色素ウロビリンが産生されることを明らかにした。また、BilRは健康成人ではほぼ全員に存在していたが、新生児・乳児や炎症性腸疾患(IBD)患者で欠損が多く認められた。本研究結果は、Nature Microbiology誌2024年1月3日号で報告された。
研究グループは、ビリルビンをウロビリノーゲンへ還元する酵素を同定し、微生物によるビリルビンの還元と健康との関係を検討することを目的として本研究を実施した。腸内細菌のスクリーニングと比較ゲノム解析により、ビリルビンを還元する候補分子を探索した。また、黄疸を発症しやすい生後1年未満の新生児・乳児(4,296例)、血清ビリルビン濃度が変化していることの多いIBD患者(1,863例)、健康成人(1,801例)を対象としてメタゲノム解析を実施した。
主な結果は以下のとおり。
・ビリルビンをウロビリノーゲンに還元する酵素としてBilRが同定され、Firmicutes門に属する腸内細菌が多くコードしていた。
・BilRが検出されない割合は、健康成人(1,801例)では0.1%であったが、生後1ヵ月未満の新生児(1,341例)は約70%(p<2.2×10-16)、クローン病患者(1,224例)および潰瘍性大腸炎患者(639例)はいずれも30%以上(いずれもp<2.2×10-16)であった。
・1歳までに、ほとんどの乳児でBilRが検出された。
本研究結果について、著者らは「新生児では、ビリルビンを還元する微生物が腸内に存在しないか少ないために、新生児黄疸が発生・悪化するという仮説を支持するものであった。IBD患者では、ビリルビンを還元する微生物が存在する割合が低いことから、ビリルビン代謝の破綻と非抱合型胆汁酸の増加が組み合わさることで、ビリルビンカルシウム胆石の発生率が上昇している可能性があると考えられる」と考察している。ただし、「結論を出すにはさらなる研究が必要である」とも述べている。
(ケアネット 佐藤 亮)