近年、バス運転手の心身の健康問題に起因する交通事故が増加している。一般的な睡眠障害である不眠症は、交通事故リスクやメンタルヘルス問題、とくに運転行動に関連する不安や抑うつとの有意な正の相関を持つといわれている。しかし、バス運転手のみを対象に睡眠関連の問題とメンタルヘルスを調査した研究はほとんどなく、これらの問題が運転パフォーマンスにどのように影響するかはよくわかっていない。中国・同済大学のYujun Jiao氏らは、不眠症とメンタルヘルスがバス運転手の危険運転行動に及ぼす影響を調査し、不眠症、不安、抑うつ、危険運転行動の4つの変数の相互作用を評価した。Accident Analysis & Prevention誌2024年2月号の報告。
中国・蘇州市のバス会社に勤務するバス運転手1,295人を対象にアンケート調査を実施した。不眠症、不安、抑うつに関するデータは、専門的なメンタルヘルス尺度に基づき自己申告で収集し、危険運転行動は、ドライバー行動アンケート(Driver Behavior Questionnaire)を用いて測定した。バス運転手の不眠症、不安、抑うつ、危険運転行動との関連を評価するため、2つの媒介分析と1つの連鎖媒介分析を用いた。
主な結果は以下のとおり。
・31歳未満、バスの運転経験が11年以上、3年以内に交通事故や交通違反に関与したバス運転手は、不眠症、不安、抑うつ、危険運転行動がより重度であった。
・4つの変数には、有意な正の相関と相互作用が認められた。
・とくに変数間の相互作用が認められた項目は、次の3つであった。
1. 不眠症と危険運転行動に媒介される不安
2. 不眠症と危険運転行動に媒介される抑うつ
3. 不安は主に抑うつを通じて危険運転行動に影響する
著者らは、「バス運転手に対する定期的な身体的および精神的な健康状態の検査は重要であり、不眠症やメンタルヘルスに焦点を当てた介入は、バス運転手の危険運転行動を直接的および間接的に減少させるうえで役立つ可能性がある」としている。
(鷹野 敦夫)