国内における医師の診療科の偏在は長らく問題となっている。平均勤務時間が長い、訴訟リスクが高いなどの理由から、外科・産婦人科などが医学生・若手医師から敬遠されて減少傾向となり、その反面、形成外科・放射線科などが増加傾向にある1)。
腫瘍内科をはじめとするがん関連の診療科も、学生時代に接点が少ない、専門性やキャリアの描き方が見えづらいなどの理由から、入局者数、専門医数、学会会員数などの伸びに課題を抱えている。こうした状況を背景として、日本臨床腫瘍学会(JSMO)の教育企画部会は、全国の大学向けに腫瘍学の教育プログラムを提供するプロジェクトをスタートした。
第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2024)では、このプロジェクト「JSMO大学」の活動内容を紹介し、大学の腫瘍内科教育が抱える課題についてディスカッションするシンポジウムが行われた。JSMO大学の中心メンバーである聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座主任教授の砂川 優氏が「JSMO University:本邦の腫瘍学教育の発展を目指した取り組み」と題した発表を行い、プロジェクト開始時に腫瘍内科の教員を対象に行ったアンケート結果を紹介した。
アンケートの概要は以下のとおり。
・実施時期:2023年3~4月
・対象:全国の医学部を有する大学82大学、日本臨床腫瘍学会の施設登録責任者
・回答:76大学(93%)から得た
・「臨床腫瘍学または腫瘍学関連の大学講義はありますか?」との問いに、「ある」が91%、「ない」が9%と、ほとんどの大学で腫瘍内科に関する講義の設定があった。
・一方で、「腫瘍内科の講義の単位数」は0.5~36単位と大きな幅があり、「講義を担当している医局員数」は25%の大学で1人、半数の大学で3人以下だった。さらに「講義スライドを作成する際に参考にしているコンテンツはあるか?」との問いに、44%が「ない」と回答するなど、教える側の負担の大きさも見える結果となった。
・「腫瘍学に関する実習はあるか?」との問いに、「ある」が65%と、実習が設定されていない大学も3分の1程度あることがわかった。
・テストについて、腫瘍学関連の内容が「定期テストに含まれている」との回答が78%、「卒業試験に含まれている」との回答が68%、「医師国家試験の過去問題に基づいたテストを作成している」との回答が77%となり、試験の分野としては定着している現状がわかった。
・教員の自由回答からは「基礎応用腫瘍学は内容が高度過ぎる」「系統的に腫瘍内科学を学ぶ機会がない」「情報量が多く一方通行」「わかりやすい資料がない」といった課題感が寄せられた。
同時に医学生向けのアンケートも行われ、腫瘍内科学の講義への感想として「面白かった」との回答が44%あったものの、「難しかった」との回答も56%あるなど(5年生の場合)、学生に興味を持ってもらう講義づくりに工夫の余地を感じさせる結果となった。
これらのアンケートの結果を受け、JSMO大学ワーキンググループは以下のような事業を展開していく予定だ。
・教育資材を作成し、全国の大学に配布(2024年4月予定)
・教育関連セミナーを開催(講義方法や国家試験対策を学ぶ)
・腫瘍内科の魅力やキャリアプランを伝える動画を作成、YouTubeで公開
JSMO2024 委員会企画 3
「腫瘍学は人気がないのか?医学部教育の実態に迫る【JSMO University】」
オンデマンド配信中(3/31まで。JSMO2024への参加登録要)
https://www.micenavi.jp/jsmo2024/
医学生向け腫瘍内科紹介動画「がん治療のジェネラリストでありスペシャリストである腫瘍内科医を目指しませんか?」
https://www.youtube.com/watch?v=P-aMqgb2AFM
(ケアネット 杉崎 真名)