学会の情報発信はどうあるべきか? 第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2024)ではSNSを使った学会の広報活動をどう広めていくかをテーマにシンポジウムが行われた。
本シンポジウムは昨年4月にJSMO広報渉外委員会の下部組織として「SNSワーキンググループ(SNS-WG)」が発足したことを契機として企画された。SNS-WGは立候補制で、現在専攻医からがん薬物療法専門医まで幅広い世代の会員14人が参加し、1)JSMO会員のSNS利用を活発にするための環境整備、2)医学生・研修医や一般市民に向けた腫瘍内科・JSMOの認知度向上、3)JSMOの国際化を主な目的として活動している。
今回のシンポジウムはメンバーからの報告のほか、国内でもっとも活発にSNSを使っている学会の1つである日本循環器学会から、活動の中心的メンバーである国際医療福祉大学大学院医学研究科 循環器内科の岸 拓弥氏が招かれ、講演を行った。本シンポジウムでは特例的に公演中のスライド撮影、SNSへの投稿を自由とし、活発なディスカッションの一助とする取り組みも行われた。
演題1)「JSMO SNS 元年」
名古屋医療センターの山口 祐平氏(SNS-WGメンバー)
――海外学会を見ると、米国臨床腫瘍学会(ASCO)のXのフォロワーは14万5,000人、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)は7万4,000人。対してJSMOは3,300人余りと大きな差がある(2024年2月時点)。しかし、学会からの公式な発信をするためには、きちんとした体制づくりが前提となる。日本循環器学会の活動も参照し、まずはJSMOとしてSNS利用の5原則と運用ポリシーを明文化し、公開した。今後も学術集会での情報共有や盛り上げ、学会のスライド投稿自由化への環境づくり、医学生向け腫瘍内科セミナーの企画・運営などを行っていく予定だ。
演題2)「SNSをキッカケに広がるアカデミアの世界」
東京都立駒込病院 呼吸器内科、国立がんセンター東病院 呼吸器内科の上原 悠治氏(SNS-WGメンバー)
――海外の学会はSNSをどう活用しているのか。ESMO2023を例にして紹介する。SNS活動を盛り上げるための20~30代の若手医師をアンバサダーとして選出し、戦略的な発信を行っている。聴衆によって発表スライドが即時にSNSに投稿され、コメント欄でディスカッションが行われたり、治療選択を投票で呼びかけたりするなどで新たな盛り上がりを見せている。なぜここまで学会がSNSを盛り上げるのか。考えるに1)学会の国際化、2)現地に参加できない人のため、3)患者のため、4)若手のため、といった側面があるのではないか。
個人的側面とがん領域に限ってSNS活用の利点を考えてみると、1)最新情報のアップデート、2)自分の研究の認知度向上、3)新たなコネクションの形成、4)患者・市民参画の促進、5)若手のリクルート活動などにあると考えている。どれも自分自身の経験から実感していることで、とくにSNSを使って希少がんの患者さん同士がつながる例などを見ると、SNSのメリットを強く感じる。
演題3)「日本循環器学会公式X @JCIRC_IPRとYouTubeの5年間の活動で見えてきた学会公式SNSの光と闇」
国際医療福祉大学大学院医学研究科 循環器内科の岸 拓弥氏(ゲスト講演)
――日本循環器学会(JCS)は公式でSNSの活用を比較的早い段階で始め、うまくいっているほうだと考えている。ただ、他学会を見るとフォロワー数が伸び悩んだり、炎上してアカウントを停止したり、難しい面もあるようだ。
JCSがSNSを使った取り組みを本格的にはじめたのは2018年前後。しかし、Twitter(当時)の公式アカウントのフォロワー数はわずか8人、投稿もほぼないような状態。学会の上層部からは「SNSなんて若者のおもちゃ」「炎上したらどうする」と散々な言われようだった。そこで、1)学会公式として真面目に取り組む、2)学会のブランディングを行う、3)SNS利用に慣れた会員でチームを結成して取り組む、4)学術集会を盛り上げることを目的とする、5)学会公式ジャーナルを広報する、6)YouTubeで教育・啓発動画を公開して拡散する、という点を確約したうえで進めた。
活動スタート当初に行ったのが、学術集会上でSNSを使って取り組むべきことを論文にまとめ、学会誌に投稿したことだ1)。論文として掲載されることで、やらざるを得ない状況にチームや周囲を追い込んだ。さらに国内の医学系学会として初めて、公式のTwitterの利用指針を定めて公開した。1)プライバシー保護、2)第三者の権利尊重、3)透明性の担保、4)技術利用に対する責任、5)関連法令の遵守を5原則とし、さらに「学会を代表する立場として、学術的なツイートする」「批判的なツイートはしない」などの細かい利用原則も定めた。そこまで準備を固めたうえで、2019年の学術集会に臨んだ。
学術集会では前述の原則に加え、「演者許可が得られたスライドだけ」「公式サポーターが撮影」「決められたハッシュタグを付けて投稿」などのルールをつくり、運用した。終了後はツイート数の集計や分析、影響力のあるアカウントを特定するクラスター解析を行い、次回以降の学術集会の座長や演者の選定の参考にする、反響あるツイートの分析を行うなどして、翌年以降の活動をブラッシュアップしている。こうした取り組みは都度論文にまとめて発表しており、学会として公式に取り組むうえでは、分析や成果の論文化も欠かせない活動だと考えている。こうした分析から「SNSに投稿した論文はその後の引用数が増える」といった傾向も見えてきたため、アクセプトされた論文をAbstractの図解を付けたうえでジャーナル公式のアカウントで発信する、という取り組みも始めた。
現在、JCS公式アカウントのフォロワー数は2万人弱。海外学会とは会員数もSNSの使い方も異なるので、数だけの比較はあまり意味がないと考えている。フォロワー数よりも投稿を見た人がなんらかの反応をしてくれる「エンゲージメント率」を重視している。
学会や医療機関単位で、組織の上層部が気軽に「情報発信や若手リクルートのためにSNSをはじめよう」と若手に依頼するケースがあると聞くが、それは危険だ。組織として公式に取り組む以上、自分たちの存在意義(コアバリュー)を明確にしたうえで、「誰に、何を伝えたいのか。その結果、何をどうしたいのか」を明確にし、数値目標を設定し、SNSに慣れた人がチームをつくってスタートする必要があるだろう。JCS公式の場合、やるべきことは「医療者向けに医療情報を発信すること」であり、目標(KPI)は「ガイドラインのダウンロード数」に設定している。批判的なコメントは必ず来るのでそうしたものはやり過ごし、優しい気持ちで真面目に継続していけば、必ず成果につながるはずだ。
3つの講演終了後は、岸氏とSNS-WGのメンバーがSNSを使うメリットや注意点などについて意見を出し合った。
JSMO2024 委員会企画 2 SNS-WGシンポジウム
オンデマンド配信中(3/31まで。JSMO2024への参加登録要)
https://www.micenavi.jp/jsmo2024/
(ケアネット 杉崎 真名)