これまでの研究により、慢性腎臓病(CKD)の発症や進行には社会経済要因(所得、教育歴、居住地など)との関連がみられ、社会経済的地位の低い人ほどリスクが高いことが示されてきた。しかし、皆保険制度のある日本での状況はわかっていなかった。
京都大学の石村 奈々氏らは全国健康保険協会(協会けんぽ)の生活習慣病予防健診および医療レセプトのデータ(約560万人分)を用いて、収入と腎機能低下の関連を調査した。本研究の結果は、JAMA Health Forum誌オンライン版2024年3月1日号に掲載された。
本研究は、日本の現役世代人口の約40%(加入者数3,000万人)をカバーする協会けんぽに加入する、34~74歳の成人を対象とした全国規模の後ろ向きコホート研究だ。2015~22年に推定糸球体濾過量(eGFR)を2回以上測定した参加者を解析の対象とした。主なアウトカムは2015年度の月額収入を10分位に分けた所得水準別にみた、急速なCKD進行(年間eGFR低下量>5mL/分/1.73m2)のオッズ比、腎代替療法(透析・腎移植)開始のハザード比だった。
主な結果は以下のとおり。
・解析対象となった559万1,060例は平均年齢49.2[SD 9.3]歳、33.4%が女性であった。女性は最も所得の低い群の71.1%を占め、男性は最も所得の高い群の90.7%を占めた。
・潜在的交絡因子を調整後、所得が最も低い群(平均月収13万6,451円)は最も高い群(平均月収82万5,236円)と比較して、急速なCKD進行のリスクが高く(オッズ比:1.70、95%信頼区間[CI]:1.67~1.73)、腎代替療法開始のリスクも高かった(ハザード比:1.65、95%CI:1.47~1.86)。
・急速なCKD進行との負の関連は、男性および糖尿病のない人でより顕著であった。
研究者らは「本研究は、健康保険や毎年の健康診断など手厚い医療制度がある日本においても、所得による腎機能低下リスクの差が男女ともに存在することを明らかにしたもので、低所得労働者に対する包括的なCKD予防・管理戦略の重要な役割を強調している」としている。
(ケアネット 杉崎 真名)