学校健診でのLDL-C測定、親の疾患発見にも寄与/日本動脈硬化学会

家族性高コレステロール血症(FH)は、約300人に1人の頻度で存在する常染色体顕性(優性)遺伝性疾患である1)。出生時よりLDL-C高値を示し、心筋梗塞などの冠動脈疾患発症率は一般人より10倍以上高い。診断基準が明確化1,2)されているものの、診断率が低い疾患の一つある。香川県では、FHの小児を早期診断することで親のFHの診断につなげる取り組みに力を入れており、今回、南野 哲男氏(香川大学医学部 循環器・腎臓・脳卒中内科学 教授)が「小児生活習慣病予防健診により家族性高コレステロール血症(FH)のこどもと大人を守る」と題し、香川県で行われている小児生活習慣病予防健診事業3)や小児FHスクリーニングの全国展開への期待について話をした(主催:日本動脈硬化学会)。
学校健診が大人の疾患発掘にも有用
小児生活習慣病予防健診とは、小学4年生(9~10歳)を対象に、将来の生活習慣病の発症を予防する目的で2012年より始まった香川県独自の健診事業である。県内17市町すべてで同じプロトコル(1:身長・体重、2:血液検査[LDL-C、HDL、TG、AST/ALT、血糖]、3:生活習慣に関するアンケート)に基づいて実施されている。健診自体は任意であるものの、毎年8,000人(対象者の92%以上)が受診し、実質的には、脂質ユニバーサルスクリーニングとみなすことができる。健診の結果がLDL-C>140mg/dLであれば、かかりつけ医へ受診・相談が推奨され、FHが疑われた場合、大学・基幹病院に紹介され、必要時、次世代シーケンサーを用いたFH遺伝子の検査を行う体制が構築されている。FHは常染色体顕性(優性)遺伝性疾患であるため1)、同氏は「子供がFHだとわかれば、両親のいずれかもFHである。子供を動脈硬化から守るユニバーサルスクリーニングはもちろんのこと、リバースカスケードスクリーニングを実施することにより、親は冠動脈疾患発症前に治療を開始することができるようになった。現在までに400人以上の子供と親・兄弟のFHを診断した」と話した。
香川のエビデンスが診断基準に採用
このほかにも、本事業で得られたデータ解析を担うことで、エビデンスの観点からもこの取り組みの重要性が認められている。「小児生活習慣病予防健診で得られたデータから、2017年のガイドラインではFH発見の感度が低いことが示され、見落とし症例が存在することが明らかになった。また、LDL-Cが250mg/dL以上の子供はすべて病原性遺伝子変異陽性であることも判明した。これらの結果を受け、22年に改訂された小児FHガイドライン1)では、香川発の科学的エビデンスが診断基準に採用され、見落としを減らすため”FH疑い“の概念が導入された。さらに、改訂版では“LDL-C≧250g/dLは“FH疑いと診断”することになった」と述べた。実際に2022年のガイドラインの診断基準をもって検証を行ったところ、FHの確定診断の感度は「特異度を維持したまま上昇」という結果が得られ、診断基準を作成して検証することの重要性も証明されたという。ただし、「親と子を別々に診察すると治療継続の低下やドロップアウトを招きかねない。それらを防ぐためにもFHの親子を一緒に診察することが鍵となる」と説明した。自治体事業から医学的結果を生み出す
世界最大規模の小児FHスクリーニング体制を誇る香川県。今後の課題として、親・子の疾患啓発、健診結果の活用・有用性の証明が求められるが、「現在、学校側より“子供から親にFHを教える課題を出す”案が検討されている。また、医療側の取り組みとして、心筋梗塞の既往者を対象としたFHスクリーニングを実施する取り組みを始めている。学校採血による小児生活習慣病予防健診を起点とした小児FHスクリーニングは、静岡県の一部(中東遠地域)ではすでに開始され、そのほかにも行政(市町)や医師会、アカデミアメンバーと協議を進めている」と、事業が広がりつつあることを示した。最後に同氏は「オール香川(地方公共団体、県医師会、大学・病院、学会、FH家族/一般市民)で小児FHを見つけていこうと奮闘している。小児FHスクリーニング体制を構築することで、小児・成人ともにFHの診断率は飛躍的に向上することが期待される。この公衆衛生学的な取り組みにより、科学的エビデンスを集積し、政策提言を実現させ、全国展開を図りたい」と締めくくった。
(ケアネット 土井 舞子)
参考文献・参考サイトはこちら
3)香川大学:『小児生活習慣病予防健診を活用した家族性高コレステロール血症の早期診断と継続的支援のための保健と医療の連携モデル構築と動脈硬化進展予測バイオマーカーの開発』事業について
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