切除不能な肝転移のある大腸がん(uCLM)に対する現在の標準療法は化学療法(CT)だが、近年肝移植(LT)が有望な結果を示している。こうした背景からLT+CTの併用療法をCT単独と比較した初のランダム化試験TransMetが実施された。米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)において、フランス・パリ・サクレー大学のRene Adam氏が本試験の中間解析結果を報告し、LT+CT併用療法が生存率を改善するとの結果に話題が集まった。
・試験デザイン:国際共同第III相非盲検無作為化比較試験
・対象:65歳以下、PS 0-1、化学療法で3ヵ月以上、部分奏効もしくは安定が得られている。CEAが80mg/mlもしくはベースラインより50%以上の減少、血小板8万超、白血球2,500超のuCLM患者
・試験群(LT+CT群):LT+CT併用、最終CTから2ヵ月以内にLT実施
・対照群(CT群):CT単独
・評価項目:
[主要評価項目]5年全生存率(5年OS率)
[副次評価項目]3年OS率、3・5年時点の無増悪生存期間(PFS)、再発率
主な結果は以下のとおり。
・2016年2月~21年7月、94例(年齢中央値54歳、四分位範囲:47~59)がCT+LT群(47例)、CT群(47例)に1:1でランダムに割り当てられた。CT+LT群の36例が適格となった(病勢進行のため9例脱落)。
・ITT解析の5年OS率はCT+LT群で57%、CT単独群で13%だった(p=0.0003、ハザード比[HR]:0.37、95%信頼区間[CI]:0.21~0.65)。プロトコル解析の5年OS率は73%と9%だった(p=0.0001、HR:0.16、95%CI:0.07~0.33)。
・PFSの中央値はCT+LT群で17.4ヵ月 、CT単独群6.4ヵ月(HR:0.34、95%CI:0.20~0.58)だった。
・CT+LT群のうち、26/36例(72%)が再発した。再発箇所は肺(14例)が多く、12/26例(46%)がオプションで手術または局所アブレーションによる治療を受けた。15/36例(42%)が最終的に無病生存だった。
・CT群は37/38例(97%)が病勢進行し、新たなレジメンでCTが行われた。最終的に1/38例(3%)が無病生存だった。
Adam氏は「LTとCTを併用すると、CT単独の場合と比較して、特定のuCLM患者の生存率が大幅に改善した。これらの結果により、肝転移大腸がんの治療戦略を変える可能性のある新しい標準オプションとしてLTを検証する必要性が示唆される」とした。
この発表と結果を受け、消化器がんを専門とする相澤病院・がん集学治療センター化学療法科の中村 将人氏はケアネットの運営する医療系キュレーションサイトDoctors’Picks(医師限定)に下記コメントを寄せた。
「発表後のディスカッションでは、選択された症例のうち40%は不適格であったこと、LT+C群の47例中9例で病勢進行により肝移植が行われなかったことから、症例選択の難しさが指摘されていた。また、肝移植を行った症例の68%で術後に化学療法が行なわれたことが情報として追加された。unanswered questionsとして症例選択の難しさや術後の化学療法について、免疫抑制剤の使用や合併症の管理が挙げられていた。私の見解としては、本試験は大腸がんの肝限局転移に対してLT+CT併用 がCT単独に比して予後を改善したというclinical changeになり得る発表だ。ただし、『肝限局なら肝移植が有効』という結論や5年OS率の57%(ITT解析)、73%(プロトコル解析)という数字だけでなく、どのような適格基準で、どのような患者選択のプロセスがあったのかはきちんと理解しておく必要がある。また、肝移植後の8%に再肝移植が行われたことや1例(3%)の術後死亡例もあったこと、術後合併症や免疫抑制剤の調整、有害事象の管理が必要であること、68%の症例で術後に化学療法が行われたこと、72%の症例で再発を認めたことも知っておく必要がある。
また、私が疑問に思ったのが、CT群では47例中7例で腫瘍が縮小し切除が行われたのに対し、LT+CT群では1例も腫瘍縮小から切除された症例がおらず、病勢進行以外は全例肝移植が行われたことだ。患者背景のバランスは取れており、LT+CT群でも肝移植ではなく肝切除にいけた症例はなかったのか。この点も今後の追加解析や論文化される時に明らかにされるだろう」
(ケアネット 杉崎 真名)