アルツハイマー病(AD)は、世界における医療制度、患者、家族に多大な負担を強いる高齢化に伴う主要な健康問題である。早期ADに対しFDAが承認しているアミロイドベータ(Aβ)標的抗体であるレカネマブは、可溶性Aβ凝集体に高い親和性を示す薬剤である。一方、可溶性Aβ凝集体は、単量体や不溶性フィブリルよりも神経毒性が高いことが示唆されている。レカネマブは、複数の臨床試験において、忍容性が良好であると報告されているが、プラセボと比較し、アミロイド関連画像異常(ARIA)および注射部位反応の発生リスクが高いことが問題となる。米国・コロンビア大学のLawrence S. Honig氏らは、早期アルツハイマー病におけるレカネマブの安全性について、第III相試験であるClarity AD試験の結果を報告した。Alzheimer's Research & Therapy誌2024年5月10日号の報告。
Clarity AD試験は、早期AD患者を対象に18ヵ月のレカネマブ治療の有効性、安全性を評価した多施設共同二重盲検プラセボ対照並行群間試験(コア試験)であり、非盲検延長試験(OLE試験)が実施された。対象患者は、レカネマブ群(レカネマブ10mg/kg隔週投与)またはプラセボ群に1:1でランダムに割り付けられた。安全性の評価には、バイタルサイン、身体検査、有害事象、臨床検査パラメータ、12誘導心電図モニタリングを含めた。ARIAの発生は、研究全体を通じMRIにより局所と中央の両方でモニタリングを行った。
主な結果は以下のとおり。
・対象は、コア試験参加者1,795例およびレカネマブを1回以上投与した1,612例(コア試験+OLE試験)。
・Clarity AD試験では、おおむね忍容性が良好であり、コア試験におけるレカネマブ関連の死亡例はなかった。
・OLE試験の死亡例は9例であり、そのうち4例は試験治療に関連する可能性があると判断された。
・コア試験+OLE試験における死亡例は24例であり、そのうち脳出血(ICH)は3例であった。コア試験ではプラセボ群で1例、OLE試験ではレカネマブ群で2例(組織プラスミノーゲン活性因子:1例、抗凝固療法中:1例)のICHが認められた。
・コア試験+OLE試験において、レカネマブ群で最も多く認められた有害事象は、注射部位反応(24.5%)であり、次いでヘモジデリン沈着を伴うARIA脳微小出血(16.0%)、COVID-19(14.7%)、浮腫を伴うARIA(ARIA-E:13.6%)、頭痛(10.3%)であった。
・ARIA-EおよびARIA-Hは、主にレントゲン画像で軽度〜中程度であった。
・ARIA-Eは、一般的に治療後3〜6ヵ月以内で発生し、ApoE e4キャリア(16.8%)でより多く、ApoE e4ホモ接合(34.5%)で最も多かった。
著者らは「レカネマブは、一般的に忍容性が良好であるが、有害事象では注射部位反応、ARIA-H、ARIA-Eが認められた。臨床医、参加者、介護者は、最適なケアを行うためにも、これらのイベントに対するモニタリングやマネジメントについて、より理解する必要がある」としている。
(鷹野 敦夫)