難聴者の聞きたい意図を汲み取る技術搭載の補聴器/デマント・ジャパン

提供元:ケアネット

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公開日:2024/07/23

 

 世界的な医療機器メーカーのデマントグループのオーティコン補聴器は、新製品の補聴器の発売に合わせ、都内でメディアセミナーを開催した。

 今回発売された新製品「オーティコン インテント」は、聞き取りの意図を補聴器ユーザーから汲み取る技術を世界で初めて搭載した補聴器。特徴として脳の自然な働きに必要な360度の音の全体像を脳に届け、さらにユーザー個々人の意図に基づき、最も聞きたいと思われる音を優先的に脳に届ける補聴器機能を備えている。

 当日は、わが国の難聴診療の現状とその対策、同社から新製品の概要などが説明された。

補聴器装用が認知機能低下を予防する可能性

 難聴が日常生活に及ぼす影響は重大であり、予防しうる認知症の最大のリスク要因は難聴であるとの報告もあり、近年注目を集めている。また、聞こえに問題がある際に聞き取ろうと頑張ることで、「聞き取り努力(LE:リスニングエフォート)」が続き、「疲労」につながるとも考えられている。このような負の影響を軽減するために、補聴器による早期介入の必要性が重要視されている。

 では、現在の難聴の現状、その対策はどのようにされているのであろうか。

 「難聴対策の重要性-疲労、認知機能低下を防ごう-」をテーマに大石 直樹氏(慶應義塾大学病院 聴覚センター センター長)が講演を行った。

 難聴の中で最も多い「加齢性難聴」は、高齢化社会とリンクする疾患であり、世界保健機関(WHO)のレポートでは全世界で患者は15億人と推定され、2050年にはさらに1.5倍になるとの予測がある。わが国の65歳以上の難聴有病者は約1,500万人に上ると推定され、男性のほうが早く到来する。難聴がもたらす不利益としては、聞こえないことによる「孤立」「認知症」「うつ」「疲れ」「生産性低下」「離職」「運転能力低下」などコミュニケーション障害と社会活動の減少がある。一方でわが国は、難聴に寛容な社会であり、対策が遅れている可能性があると大石氏は課題を提起した。

 難聴と認知症について、認知症の危険因子として中年期以降では難聴(8%)、外傷(3%)、高血圧(2%)の順で1番高く、早期に介入すれば認知症を予防できる可能性を説明した。また、厚生労働省の認知症対策でも危険因子として「難聴」が明記され、防御因子として活発な精神活動のサポートに「補聴器」が登場するなど広く対策が定められていることにも触れた。実際、高齢者に難聴があると脳容積の減少が報告され、とくに右側頭葉に聴力低下群では有意な容積減少を認めたという1)

 同様に米国の60代605例について、Digit Symbol Substitution Test (DSST)の知能検査で知能評価と聴力の関係を研究したところ、聴力レベルの悪化とDSTT低値に有意に関連があり、25dBの聴力低下に伴う認知機能の低下は7年経年変化と等価であるとの試算がなされ、その一方で補聴器使用者では、年齢、性別、重症度などの調整をしてもDSSTスコアが高い結果となった2)

 続いて大石氏が自院での補聴器装用と認知機能の関係を研究した結果を述べた。研究では、55歳以上かつ両側の平均聴力閾値25dBHL以上の患者を補聴器未装用者55例と装用者62例に分け、Symbol Digit Modalities Test(SDMT)で認知機能検査を実施した。その結果、47.5dB以上の補聴器未装用者ではSDMTスコアと聴力閾値に有意な関連を認め、補聴器装用が認知機能低下を予防する可能性が示唆されたという。

なぜ補聴器はわが国では普及しないのか

 補聴器の装用は生活の質を向上させ、LEを軽減させるメリットがある反面、わが国では補聴器の普及のハードルが高い。たとえば、「高価なわりに聞こえない」「聞き取れない」など機能に関するものが多く、そのせいか補聴器の普及率比較でわが国は諸外国と比べ15%と下位の方にある。また、使用者の全体的な満足度は50%とあまり高くない。

 その理由として、補聴器はメガネと違い、数ヵ月程度、聞こえに脳が慣れる訓練(聴覚リハビリテーション)が必要であり、初めの導入で止めてしまう人が多いのが要因の1つとなっている。

 聴覚リハビリテーションでは、小さい音からはじめ、大きな音が聞こえる訓練を約3ヵ月かけて行っていく。その結果、1対1の会話はしやすくなり、テレビの音量もよく聞こえるようになり、生活の質は向上する。ただ、レストランなどで複数の会話は難しく、パーティーでは周囲の音を拾ってしまい、肝心な会話の音が聞き取れないという課題もあり、今後の技術革新が待たれるという。

 最後に大石氏は、「今後も聴覚障害に対する診療科横断的、全人的アプローチにより、わが国の聴覚診療のレベルを上げていきたい」と展望を語り、講演を終えた。

装用者の意図を理解し、聞きたい音声が聞ける補聴器インテント

 「オーティコン インテント」(インテント)について、渋谷 桂子氏(デマント・ジャパン プロダクトマネジメント部長)が製品の特長を説明した。

 インテントは、同社独自の技術である“ブレインヒアリング”に基づいて研究開発された製品で、脳の自然な働きに必要な360度の音の情景とともに、装用者個人が最も聞きたい音を際立たせ、騒音下でも聞き取り能力を向上させる。また、人が無意識に行う頭や体の動き、会話活動、周囲の音環境の4つの側面を感知する“自分センサー”の実現により、装用者の意図を瞬時に汲み取り、聞きたい音声が聞けるようにサポートする。

 そして、インテントは、入力された音を学習プロセスにより調整し、正解のデータと比較して出力の重みにズレがあれば修正、複雑な環境に対応できる仕組みも持っている。

 本器はリチウム充電式で1日を通して利用でき、本体をタップすることで電話の操作やiPhoneとのハンズフリー通話も対応、スピーカーは人間工学に基づきフィット感があるものになっている。

 前世代の補聴器と比較し、最大10%の音の向上と聞き心地の向上と最大13%の音の情景の中で多くのニュアンスを届けることができる補聴器となっている。

 本器はオープン価格で、全9色、耳かけ型で、軽度~重度難聴まで対応する。機器の認証日は2024年3月27日、同年6月6日から受注受付を行っている。

(ケアネット 稲川 進)