雑音対策で補聴器の調節、設定をより正確に/デマント・ジャパン

提供元:ケアネット

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公開日:2024/04/25

 

 加齢に伴う難聴は認知症の原因になるという研究レポートの発表以来1,2)、難聴対策にスポットが当たっている。デマント・ジャパンは、同社が研究開発した雑音下での音声聴取用処方の新スタンダード「ACT(Audible Contrast Threshold:可聴コントラスト閾値)」の発売に合わせメディアセミナーを開催した。
 「ACT」は、補聴器の適切な調整および補聴器装用者の補聴器への満足度向上が期待される新しい聴力測定法であり、セミナーでは、わが国の難聴の現状と課題、ACT共同研究の内容などが講演された。

 なお、ACTは同社の聴覚診断機器販売会社であるダイアテックジャパンより販売されている。

わが国は補聴器の普及も、補聴器の使い方にも課題あり

 はじめに同社代表取締役社長の齋藤 徹氏が、会社の概要とわが国の難聴対策の課題を説明した。

 デマント社は、設立120年を迎える聴覚ヘルスケア企業グループであり、わが国では「オーティコン補聴器」で知られている。同社はデンマークに補聴器、聞き取りテクノロジー、AIなどの聴覚に特化した基礎研究所を持ち、聴覚ヘルスケアの発展に向け研究を行っている。また、わが国では1973年より活動を展開し、補聴器装用率15%を超えることを目指している。

 世界で高齢化が進む中で、難聴者も増加している。難聴の放置は認知症発症のリスクとなり、家族などへの負担、医療費の増大など社会的な課題となる。難聴の対策には補聴器の装用などが必要となるが、社会的にその重要性は浸透していない。欧米の補聴器装用率が、難聴者の50%を超えているのに対しわが国では「普及率・満足度・両耳率」のすべてが欧米の数字を下回っている。その原因としては、社会の認識不足、聴覚ケア専門家・医療者の不足、専門家のカウンセリング、フィッティングケアの不足などが指摘されている。とくに難聴者の最大の悩みは、雑音下での聞こえの悪さであり、この雑音下での聞き取り力をいかに向上させるかが、満足度を上げる鍵となる。

 終りに齋藤氏は「これからもグループ全体を挙げて、聴覚デバイスなどの開発、提供を行う」と今後の展望を述べた。

ACTを聴覚ケアのスタンダードに

 ACT検査とその事例について同社マーケティング部の田中 智英巳氏が説明した。

 通常、聴力検査値は同じでも雑音下では、聞こえる能力が異なる場合があり、補聴器の装用では、何度も調節を行い、その人に合った個別設定が行われるのが理想的である。とくに雑音下聴取能の評価に基づいて行われるのが良いとされる一方で、現状、多くの人がデフォルトの設定などで使用し、満足度の低い使われ方のままであるという。

 こうした補聴器装用者のアンメットニーズを埋めるために開発されたのがACTである。これからは、聞こえの質をACTで評価することで、個別設定でより質の高い調節ができるようになる。

 田中氏は、「今後、ACTを含め補聴器の処方が自動的になり、聴覚ケアのスタンダードになるようにしていきたい」と目標を語った。

ACTの使用は補聴器設定の指標にできる

 「雑音下語音聴取検査の現状と課題~ACT共同研究・国際共同臨床試験について」をテーマに新田 清一氏(済生会宇都宮病院 耳鼻咽喉科 主任診療科長・聴覚センター長)が、ACTの臨床試験の概要を説明した。

 さまざまな聞こえの検査は、聴覚障害の診断と補聴器のフィッテングを目的に、純音聴力検査と語音聴力検査が行われている。そして、難聴者の86%が「雑音下での聞き取りが困難」と回答し、重要な課題となっている。

 現在、わが国で行われている雑音下語音聴取検査(測定)は、雑音下で50音などを聞き取り正答率を測定する「57-S」や「CI-2004」などと雑音下で文章の聞き取りを測定し、正答率50%の雑音の大きさの比を測定する「HINT(Hearing in Noise Test)」などがある。

 しかし、これらの検査は、約5~17分の時間を要するだけでなく、言語依存的で検査用に広いスペースが必要となる。また、検査設定が実生活の聴音環境と異なり、補聴器機能の設定指標としては不十分など多くの課題のある検査である。

 こうした課題の解決に登場したACTでは、短時間(平均2分)、言語非依存で省スペース、実生活の聴音環境に合わせた検査ができると期待される。

 ACTでは、両耳に装着したヘッドフォンにピンクノイズを呈示。ノイズの中にサイレン音が聞こえたら応答ボタンを押す操作で、検査では変調度を変えながら、検知できる変調度(閾値)を測定する。測定結果は-4~14の段階で評価する。

 ACTに適用性があるのかを確認したわが国とドイツの共同臨床試験では、「ACT値の雑音下語音聴取能の推定」「異言語・補聴器調整方法でのACTの活用」「ACTが補聴器機能の設定指標となるか」の3つの課題について検討が行われた。

 被検者は100例(日本19例、ドイツ81例)、純音平均聴力閾値は29~79dB HL(平均52dB HL)、被検者の年齢は32~79歳(平均66歳)、オーティコンMore1ミニRITEを両耳フィッテングで実施した。試験方法は、純音聴力検査、ACTテスト、HINTを測定し、ACT値と補聴器装用下HINTの結果との相関、ACTと年齢などを重回帰分析した。

 その結果、ACTテストの再検査信頼性は、同じ訪問内で0.96dB、平均試験時間は100秒だった。また、ACT、純音平均聴力(PTA)、年齢から予測した雑音下の語音聴取閾値(SRT)は、PTA単独よりもACTとPTAの組み合わせのほうが正確に被検者の雑音下聴取能を予測することができた。

 雑音下における実測SRTと推定SRTでは、ACT推定値と実測値の相関は極めて高いことから、ACTの結果が悪いと、雑音下語音聴取も悪いことがうかがえた。

 新田氏はまとめとして「ACTの使用で補聴器装用下の雑音下聴取能を予測でき、補聴器機能設定の指標となる」と結び、講演を終えた。