観察研究において、抗精神病薬は肺炎リスクと関連していることが示唆されているが、抗精神病薬の使用が肺炎リスクにどの程度影響を及ぼすのか、用量反応性、各薬剤と特異的に関連するかは不明である。オランダ・アムステルダム大学のJurjen J. Luykx氏らは、特定の抗精神病薬に関連する肺炎リスクを推定し、多剤併用療法、投与量、受容体結合特性が統合失調症患者の肺炎と関連しているかを調査した。JAMA Psychiatry誌オンライン版2024年6月26日号の報告。
対象は、1972〜2014年のフィンランドレジストリデータより特定された、16歳以上の統合失調症または統合失調感情障害患者。診断、入院治療、専門外来治療に関するデータは退院レジストリ、外来での治療薬に関するデーは処方箋レジストリより収集した。フォローアップ期間は1996〜2017年、データ分析は2022年11月4日〜2023年12月5日に実施した。抗精神病薬の使用量は、用量別に低用量群(WHOが定義する1日用量[DDD]:0.6未満)、中用量群(DDD:0.6〜1.1)、高用量群(DDD:1.1以上)に分類した。特定の抗精神病薬単剤療法、多剤併用療法、抗コリン負荷に応じて、低、中、高に分類した。主要アウトカムは、肺炎発症による入院とした。肺炎リスクは、抗精神病薬未使用の場合を基準とし、調整済み個別(within-individual)Cox比例ハザード回帰モデルを用いて分析した。
主な結果は以下のとおり。
・対象は、統合失調症患者6万1,889例、平均年齢は46.2±16.0歳、男性の割合は50.3%(3万1,104例)であった。
・22年間のフォローアップ期間中に、肺炎で1回以上入院した患者は8,917例(14,4%)、入院後30日以内に死亡した患者は1,137例(12.8%)であった。
・全体では、抗精神病薬使用患者は、抗精神病薬未使用患者と比較し、肺炎リスクとの関連は認められなかった(調整ハザード比[aHR]:1.12、95%信頼区間[CI]:0.99〜1.26)。
・抗精神病薬単剤療法では、抗精神病薬未使用患者と比較し、用量依存的に肺炎リスクの増加との関連が認められたが(aHR:1.15、95%CI:1.02〜1.30、p=0.03)、多剤併用療法では関連が認められなかった。
・抗コリン負荷別に分類した場合、抗コリン負荷の高い抗精神病薬の使用と肺炎リスクとの関連が認められた(aHR:1.26、95%CI:1.10〜1.45、p<0.001)。
・肺炎リスクの増加と関連していた抗精神病薬は次のとおりであった。
【高用量クエチアピン】aHR:1.78(95%CI:1.22〜2.60)、p=0.003
【高用量クロザピン】aHR:1.44(95%CI:1.22〜1.71)、p<0.001
【中用量クロザピン】aHR:1.43(95%CI:1.18〜1.74)、p<0.001
【高用量オランザピン】aHR:1.29(95%CI:1.05〜1.58)、p=0.02
著者らは「統合失調症患者の肺炎リスクと関連する抗精神病薬は、クロザピン(180mg/日以上)だけでなくクエチアピン(440mg/日以上)やオランザピン(11mg/日以上)も含まれることが示唆された。さらに、抗精神病薬単剤療法および抗コリン負荷の高い抗精神病薬の使用は、用量依存的に肺炎リスクを増加させる可能性がある。本知見は、肺炎リスクの高い抗精神病薬による治療を必要とする患者に対する予防戦略の必要性を示唆している」としている。
(鷹野 敦夫)