精神疾患の治療には、さまざまな向精神薬が用いられるが、その多くは抗コリン作用を有しており、認知機能を低下させる可能性がある。フランス・Lebanese American UniversityのChadia Haddad氏らは、抗コリン作動性負荷と抗精神病薬の用量に焦点を当て、神経心理学的障害や症状の治療に用いられる薬剤と統合失調症患者の認知機能との関連を評価した。その結果、慢性期統合失調症患者の認知機能は、薬物療法や抗コリン作動性負荷の影響を受ける可能性があることを報告した。BMC Psychiatry誌2023年1月24日号の報告。
2019年7月~2020年3月、Psychiatric Hospital of the Cross-Lebanonで統合失調症と診断された120例の入院患者を対象に、横断的研究を実施した。抗コリン作動性負荷の算出にはAnticholinergic Drug Scale(ADS)を用いた。クロルプロマジン等価換算量はアンドレアセン法を用いて算出し、抗精神病薬の相対用量を評価した。客観的な認知機能の評価には、統合失調症認知機能簡易評価尺度(BACS)を用いた。
主な結果は以下のとおり。
・クロルプロマジン等価換算量の低下と有意に関連していた因子は次のとおりであった。
●BACS総スコアが高い(r=-0.33、p<0.001)
●言語性記憶スコアが高い(r=-0.26、p=0.004)
●ワーキングメモリスコアが高い(r=-0.20、p=0.03)
●運動機能スコアが高い(r=-0.36、p<0.001)
●注意と情報処理速度スコアが高い(r=-0.27、p=0.003)
・認知機能の低下と有意に関連していた因子は次のとおりであった。
●ADSが高い(標準化β[Sβ]=-0.22、p=0.028)
●クロルプロマジン等価換算量が高い(Sβ=-0.30、p=0.001)
●気分安定薬の使用(Sβ=-0.24、p=0.004)
・慢性期統合失調症患者の認知機能に対し、薬物療法および抗コリン作動性負荷が影響を及ぼしている可能性が示唆された。
・統合失調症患者の認知機能におけるコリン作動性神経伝達および一般的な神経化学的メカニズムを解明するためには、さらなる研究が求められる。
(鷹野 敦夫)