夜間の暑熱曝露と脳卒中との関連を調べた15年間にわたる時間層別ケースクロスオーバー解析によって、前夜が極端な暑さだった日は脳卒中のリスクが有意に高く、2006~12年と比較して2013~20年はそのリスクが増大していたことを、ドイツ・Helmholtz Zentrum MunchenのCheng He氏らが明らかにした。European Heart Journal誌2024年6月21日号掲載の報告。
都市部のヒートアイランド現象により、ここ数十年で夜間の気温は昼間の気温よりも急速に上昇している。夜間の暑熱曝露の増加は、睡眠や体温調節などを妨げて健康に重大なリスクをもたらす可能性があるが、脳卒中リスクに及ぼす影響を調査した研究はない。そこで研究グループは、ドイツのアウクスブルク地域における夜間の暑熱曝露と脳卒中リスクとの関連性を調査し、15年間にわたる時間的変動を調べた。
対象は、2006年1月1日~2020年8月31日にアウクスブルク大学病院神経科に入院した脳卒中患者2万2,284例であった。そのうち、寒い季節に室内暖房によって引き起こされる大幅な温度差を避けるために、5~10月に発生した脳卒中症例に限定して解析を行った。平均気温、相対湿度、気圧などの1時間ごとの気象データは地元の気象観測所から取得した。分布ラグ非線形モデルを用いた時間層別ケースクロスオーバー解析によって、日中の最高気温やその他の気候変数を調整したうえで、高温夜間過剰(hot night excess[HNE])指数で測定した極端な夜間の暑さ(extreme nighttime heat:HNEの97.5パーセンタイル)に関連する脳卒中リスクを推定した。なお、本研究において、「夜間」は前日の夜の始まりから当日朝の夜の終わりまでであった。
主な結果は以下のとおり。
・2006~20年の5~10月に脳卒中のために入院した1万1,037例(平均年齢:71.3歳)を解析に含めた。2006~12年は5,343例、2013~20年は5,694例であった。
・2006~12年から2013~20年にかけて平均気温は0.3度上昇し、最高気温は0.7度上昇した。極端な夜間の暑さの日は79日から82日に増加した。
・調査期間全体では、極端な夜間の暑さの日に脳卒中リスクが有意に増加していた。オッズ比(OR)は1.14(95%信頼区間[CI]:1.01~1.32)であった。
・期間別では、2006~12年は夜間の極端な暑さの影響はみられなかったが(OR:0.99[95%CI:0.91~1.08])、2013~20年は有意な影響がみられた(OR:1.33[95%CI:1.18~1.50])。
・2006~12年では、夜間の極端な暑さは年間2例の脳卒中の過剰発生に関連していたが、2013~20年では33例の過剰発生と関連していた。
・高齢者、女性、軽度の脳卒中患者では、脳卒中リスクが顕著に増大していた。
これらの結果より、研究グループは「昼間の最高気温を考慮しても夜間の暑熱曝露が脳卒中リスクの上昇と関連していて、2006~12年と比較して2013~20年ではこのリスクが大幅に増大していた。日中の温暖化よりも夜間の温暖化が著しく進むと予測される状況において、夜間の暑熱曝露が脳卒中イベントに及ぼす影響を軽減するための予防措置が必要である」とまとめた。
(ケアネット 森 幸子)