日本の社会経済的指標と認知症リスク

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2024/08/14

 

 生涯にわたる社会経済的指標(Socioeconomic status:SES)の推移が、認知症の発症リスクと関連するかどうかを調査した、日本発の研究結果が発表された。大阪大学の坂庭 嶺人氏らによる本研究結果はJAMA Network Open誌2024年5月1日号に掲載された。

 2010年8月~2016年12月に実施されたこの前向きコホート研究では、日本老年学的評価研究のデータを使用し、日本の31地域の65歳以上の参加者を対象とした。参加者は介護保険や医療福祉サービスを使用しておらず、認知症の診断を受けていない人とされ、自記式質問票で回答した。データ解析は2022年4月~2023年4月に実施された。SES値欠落者、追跡不能者、ベースラインから1年以内の認知症発症者は除外された。主なアウトカムは認知症発症リスクと、それに伴う生涯にわたる認知症のない期間の減少または増加だった。認知症の発症は介護保険のデータによって特定された。

 主な結果は以下のとおり。

・計9,186例(男性4,703例[51.2%])が対象となった。ベースライン時の平均年齢は74.2(SD 6.0)歳だった。
・SESの推移は、上昇(upward)、安定上流(stable-high)、上位中流(upper-middle)、下位中流(lower-middle)、下降(downward)、安定下流(stable-low)の6つに分類された。
・追跡期間中に800例の認知症が特定された。生活習慣、併存疾患、社会的要因など、多くの認知症リスク要因がSESの推移パターンと関連していた。
・下位中流のSESと比較したとき、認知症リスクが最も低かったのは上昇(ハザード比[HR]:0.66、95%信頼区間[CI]:0.57~0.74)、次いで安定上流(HR:0.77、95%CI:0.69~0.86)であり、下降(HR:1.15、95%CI:1.09~1.23)、安定下流(HR:1.45、95%CI:1.31~1.61)ではリスクが上がった。上位中流への推移と認知症リスクとの関連は認められなかった。
・生涯にわたる認知症のない年数は、SESの上昇への推移で最も増加した(例:65歳時点で1.8年[95%CI:1.4~2.2])。一方、75歳以上の生涯にわたる認知症のない年数は、SESの下降への推移で最も減少した(例:85歳時点で-1.4年[95%CI:-2.4~-0.4])。

 研究者らは「この日本の高齢者のコホート研究では、SESの上昇と下降が生涯にわたる認知症リスクと認知症のない期間の長さと関連していることが判明した。この結果は、社会的流動性と健康寿命の関連を理解するのに役立つ可能性がある」としている。

(ケアネット 杉崎 真名)