がん患者の予後がコンサルトに与える影響~アンケート結果/日本腫瘍循環器学会

提供元:ケアネット

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公開日:2024/08/19

 

 診療科横断的な治療アプローチの好例として、腫瘍循環器学が挙げられる。がん治療には、治療を遂行する腫瘍医、がん治療による心不全などの副作用に対応する他科の医師、この両者の連携が欠かせない。しかし、両者の“がん患者を救う”という目的は同じであっても、患者の予後を考えた際にどこまで対応するのが適切であるか、については意見が分かれるところである。実際に、がん患者の予後に対する両者の意識を明らかにした報告はなく、がん患者に対し“インターベンション治療などの積極的治療をどこまで行うべきなのか”、“どのタイミングで相談し合うか”などについて、現場ではお互いに頭を悩ませている可能性がある。

 そこで、志賀 太郎氏(がん研有明病院 腫瘍循環器・循環器内科/総合診療部長)が「JOCS創設7年目の今、腫瘍医、循環器医、それぞれの意識は~インターネットを用いた『余命期間と侵襲的循環器治療』に対するアンケート調査結果~」と題し、8月4、5日に開催された第7回日本腫瘍循環器学会学術集会にて、腫瘍医と循環器医の連携意識の差や今後の課題について報告した。

 本講演内で触れているアンケートは志賀氏を筆頭に大倉 裕二氏(新潟県立がんセンター新潟病院腫瘍循環器科)、草場 仁志氏(浜の町病院腫瘍内科 部長)、向井 幹夫氏(大阪がん循環器病予防センター総合健診/循環器病検診部 部長)が設問を作成し、CareNet.com会員医師1,000人(循環器医:500人、腫瘍医:500人)を対象として、2023年11月2~15日にインターネット調査したもの。
*呼吸器、消化器、乳腺外科、血液内科、腫瘍科に属する医師

「腫瘍循環器的治療の介入時、患者予後(余命)を意識する場面」に関するアンケート

<腫瘍医向け>
Q1:進行がん患者に対し、侵襲的な循環器治療を希望するか?
Q2:がんによる予後がどれくらいだとがん患者の循環器的介入を依頼するか?
Q3:カテーテル治療などの侵襲的治療を循環器医に依頼する上で重視していることは何か?

<循環器医向け>
Q1:進行がん患者に対する侵襲的な循環器治療の相談を受けた際、戸惑ったことはあるか?
Q2:がんによる予後がどのくらいだとがん患者に対する侵襲を伴う循環器的介入に積極的か?
Q3:カテーテル治療などの侵襲的治療を行う上で重視していることは何か?

<共通質問>
Q4:コンサルテーションをする上で注意していることは何か?

 アンケート回答の結果は以下のとおり。

・アンケート回答者の年齢別割合は、循環器医(30代:34%、40代:29%、50代:24%、60代:13%)、腫瘍医(30代:30%、40代:29%、50代:26%、60代:14%)で、共に30代が最も多かった。
・腫瘍医の診療科別割合は、消化器科:49%、呼吸器科:21%、乳腺外科:20%、血液内科:8%、腫瘍科:2%であり、呼吸器科は40代、乳腺外科は50代の回答者が多い傾向であった。
・進行がん患者への侵襲的循環器治療について、腫瘍医の33%が希望すると回答し、こうした侵襲的治療の依頼に循環器医の83%が戸惑った経験があると回答した。
・がんによる予後(余命)期間と侵襲的循環器治療の介入について、腫瘍医は「半年から1年未満の期間があれば治療介入を依頼する」と回答した医師が、循環器医は「1~3年未満の期間があれば治療介入する」と回答した医師が最も多かった。
・侵襲的循環器治療を行う上で重視することは、腫瘍医、循環器医いずれにおいても「患者/家族の希望」「がんによる予後(余命)」という回答が多く、一方で「ガイドライン」を重視するという回答は最も少なかった。
・腫瘍循環器領域を問わず、コンサルテーションをするうえで最も注意している点については「医師同志のコミュニケーション方法(対面、電話、カルテ内)」と回答した医師がいずれにおいても最も多かった。また、腫瘍医は「専門家の意向を尊重する」という回答が上位であった。

 この結果を踏まえ、同氏は「余命期間と侵襲的循環器治療に対する腫瘍医と循環器医の意識に違いがあり、腫瘍医は半年以上の予後が期待される場合に侵襲的な循環器治療介入を考慮(依頼)する傾向にあることが明らかになった。こうした違いを理解しつつ連携を深めていくことが肝要」とし、「この差を埋めていく必要性があるのかは不明であるが、このような差があることを伝えていくことにも力を入れていきたい」としている。

(ケアネット 土井 舞子)

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