ICIの継続判断にも有用、日本初のOnco-cardiologyガイドライン発刊

提供元:ケアネット

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公開日:2023/03/29

 

 本邦初となる『Onco-cardiologyガイドライン』が第87回日本循環器学会学術集会の開催に合わせて3月10日に発刊された。これまで欧州ではESC(European Society of Cardiology、欧州心臓病学会)などがガイドラインを作成・改訂しており、国内でもガイドライン発刊が切望されていたことから、日本臨床腫瘍学会と日本腫瘍循環器学会が協働しMindsに準拠したものを作成した。今回、学術集会の会長企画シンポジウム6「OncoCardiology:診断と治療Up-to-Date」において、Onco-cardiologyガイドラインのポイントについて発表された。

Onco-cardiologyガイドラインは重要臨床課題10項目を選定

 Onco-cardiologyガイドラインの目的は、(1)がん診療において心機能を正確に評価し、心血管疾患を適切に管理すること、(2)がん治療を中断することなく可能な限り継続することで、本ガイドラインの利用によってがん患者の全生存率とQOL改善が期待される。

 Onco-cardiologyガイドラインは重要臨床課題を以下のように10項目を選定し、がん患者が薬物治療を行う過程からその後のがん治療関連心血管毒性(静脈血栓塞栓症、肺高血圧症、心不全)発現時の対応方法に関するquestionが盛り込まれている(p.9 総説1-9参照)。

<重要臨床課題>
1)がん薬物療法中の心機能のモニター
2)心血管イベントを発症した患者に対する薬物療法の選択
3)トラスツズマブのマネジメント
4)血管新生阻害薬のマネジメント
5)プロテアソーム阻害薬のマネジメント
6)免疫チェックポイント阻害薬のマネジメント
7)がん薬物療法における静脈血栓塞栓症のマネジメント
8)がん薬物療法における肺高血圧症のマネジメント
9)心毒性を有するがん薬物療法のマネジメント
10)がん薬物療法における心血管イベントの予防

 上記の2)を担当した矢野 真吾氏(東京慈恵会医科大学腫瘍・血液内科 診療部長/教授)は、「がん薬物療法中の心血管イベントを理由にがん薬物療法を中止することは再発率の増加や全生存期間の短縮につながることから、『Background question(BQ)2:がん薬物療法中に心血管イベントを発症した患者に対して、がん薬物療法を継続することは推奨されるか?』を設定した」とコメント。また、「欧米のガイドラインと比較して、Onco-cardiologyガイドラインはエビデンスのあるquestionはシステマティックレビューを行いCQとしたが、エビデンスのないquestionはBQまたはfuture research question(FRQ)にした点に注目してほしい」と述べ、「がん薬物療法が有効でかつ治療継続が可能と判断できる場合は、モニタリングと対症療法を行いながらがん治療の継続を検討する。治療継続が困難な場合は代替療法について検討することをこのBQのステートメントにした」と説明した。

Onco-cardiologyガイドラインにICIと心筋炎の関係性

 Onco-cardiologyガイドラインで、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)と心筋炎の関係性について解説した庄司 正昭氏(国立がん研究センター中央病院総合内科・循環器内科)は、「ICIによる心筋炎は直接的なものと間接的なものがあるが、いずれもスクリーニングにはトロポニンや心電図などが重要」と話し、「トロポニンはICI心筋炎患者の94%で上昇を認めたが、トロポニンが上昇しても臨床的な心筋障害を認めないケースも報告されている。また、心電図異常はICI心筋炎患者の89%で認められた1)」と述べた(FRQ6-1:ICI投与中の心筋障害診断のスクリーニングは有用か?)。

 さらに、心筋障害発生時のステロイドの使用(BQ6-2:ICIによる心筋障害発生時、その治療としてステロイド療法は有用か?)について、「使用すべき種類・投与経路・用量は定まっていないが有用な可能性があるため、ステロイドを選択しない手はない」とコメントし、座長ならびに演者を務めた阿部 純一氏(MDアンダーソンがんセンター 教授)からの“ICIで発症リスクの高い虚血性心疾患との鑑別”に関する問い対して、同氏は「虚血性心疾患では胸痛などの症状が見られることから、それらの患者の訴えにしっかり耳を傾けることがスクリーニング検査とともに重要」と回答した。

Onco-cardiologyガイドラインにがん患者の高血圧治療

 高血圧の視点からOnco-cardiologyについて解説した赤澤 宏氏(東京大学医学部付属病院 循環器内科)によると、がん患者における高血圧の管理や治療に関するエビデンスがほとんどない状況だという。実際に、高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)では『第7章:他疾患を合併する高血圧』にも項目立てられておらず、『第13章:二次性高血圧-薬剤誘発性高血圧 4)その他』の1つとして、がん分子標的薬、主として血管新生阻害薬(抗VEGF抗体医薬あるいは複数のキナーゼに対する阻害薬など)により高血圧が誘発される。発症率については薬剤、腫瘍の種類などにより異なるが、これらの薬剤使用時には血圧変化に注意する。通常の降圧薬を用いた治療を行うと、ESCのポジションペーパー同様の記載がなされている。このような現状を踏まえ、「JSH2025年改訂版には腫瘍循環器としてのCQを提案していきたい」と意気込んだ。なお、Onco-cardiologyガイドラインでは、『BQ4:血管新生阻害薬投与中の患者に対し、血圧管理が必要か?』が設定されており、血管新生阻害薬投与中の患者においても、非がん患者と同等の血圧コントロールをすることが望ましく、「がん患者における高血圧治療のエビデンスは乏しく、降圧治療の適応や強度は、がんの治療内容や予後、パフォーマンスステイタス、年齢や併存疾患、臓器障害、脳心血管リスクなどのさまざまな背景を考慮して、個別に対応する必要がある」と強く訴えた。

(ケアネット 土井 舞子)