電子処方箋発行時の電子署名、必要な準備や認証方法は?/厚労省

提供元:ケアネット

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公開日:2024/09/30

 

 電子処方箋が2023年1月から開始された。患者のリアルタイムな処方・調剤結果情報が確認できるとともに、システムチェックによる重複薬や併用禁忌薬の投薬回避が可能になることなどが期待されている。薬局の電子処方箋システムの導入が先行し、その多くの薬局で紙の処方箋も含めて調剤結果情報の登録がされ、これら情報の活用はされつつある。一方、より安心・安全な医療となるメリットはすべての医療機関が導入することで最大化されるが、病院や診療所の導入率はまだ低い。今回は、電子処方箋の現状とメリット、電子処方箋発行時に必要となる電子署名、電子署名も関係する医療DX推進体制整備加算などについて、厚生労働省電子処方箋サービス推進室の長嶋 賢太氏に話を聞いた。

電子処方箋の現状とメリット

 2024年9月16日現在、全国3万2,220施設(15.3%)で電子処方箋の運用が開始されており、薬局は46.5%である一方、病院は2.0%、診療所は4.8%である。この現状に対し、長嶋氏は「電子処方箋システムを導入していない医療機関の処方箋も含めて、薬局でその調剤結果情報を電子処方箋管理サービスに登録・蓄積いただいており、その情報の利活用は進んできている。一方で、2025年3月までにおおむねすべての医療機関・薬局に対して普及させるのが目標なので、その高い目標に対して考えるとまだまだと考えている」と率直に感想を語った。そのうえで、「電子処方箋管理サービスに登録された処方・調剤の情報を活用し、処方箋を発行する際に薬剤の重複や飲み合わせを自動的にチェックすることでリスク回避ができ、蓄積された薬剤情報をもとに治療方針や処方を考慮できるというメリットがある。導入率が低い病院においては、これまで患者さんの入院時に服用薬を聞き取ったりお薬手帳などで確認したりしていたが、薬剤情報がデータとして一括的かつ効率的に確認できるのでとくにメリットは大きいと考える。実際に、緑内障患者に併用禁忌薬が処方されそうなところを回避できたなど多くの事例が寄せられている。能登半島における災害時など、普段診察しない患者に対応する際、処方・調剤の参照により、的確な治療へと反映できたとの声もある」と実臨床でのメリットを示した。

電子処方箋発行時に必要となる電子署名

 医師が処方箋を発行する際には記名押印または署名しなければならないが、電子処方箋では紙のような対応ができないため、電子署名を付すことになる。署名方式としては、大きく分けて以下の2種類がある。

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(1)ローカル署名:HPKIカードをICカードリーダーに毎回かざし、原則パスワード入力のうえでHPKIカードの中の電子証明書を用いて電子署名を付与する方法
(2)リモート署名:1日1回本人認証を行い、クラウドで管理されている電子証明書を呼び出し、その後は自動で電子署名を付与する方法
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 長嶋氏は、「ローカル署名では、つねにHPKIカードが手元にある必要があるが、リモート署名では原則として1日1回本人認証を行うことで電子署名が可能となる。本人認証は現在、マイナンバーカード、スマートフォンによる生体認証、HPKIカードのいずれかによって行う。HPKIカードを取得またはクラウドで管理されている電子証明書(HPKIセカンド電子証明書)を利用可能にするには、医師の場合は日本医師会電子認証センターまたは一般財団法人医療情報システム開発センター(MEDIS)といったHPKIの認証局に直接発行申請を行うか、マイナポータル経由で前述のHPKIの認証局に申請する。いずれの申請からもHPKIカードの発行やHPKIセカンド証明書の活用は可能となるが、本人認証方式としてマイナンバーカードを活用するにはマイナポータル経由からの申請が必要となる。このマイナポータル経由で日本医師会に申請した場合、日本医師会の非会員では通常5,500円かかっていた費用が当面の間は無料である。また、マイナポータル経由からは住民票の添付が不要など、必要書類が簡略化されるなどのメリットがある。申請手順も公開しているので、ぜひ活用のうえで対応いただきたい。また、現在は世界的なICカード不足でHPKIカードの発行が遅れるという問題があるが、リモート署名ではHPKIカードがなくてもマイナンバーカードやスマートフォンによる生体認証を用いて本人認証し、電子署名を行うことができるうえにローカル署名のような手間がない」と、選択肢が広がった電子署名の方法を解説した。

 なお、医師個人のマイナンバーカードを用いるとなると個人情報の流出が懸念されるが、閉域的なネットワーク環境で氏名や住所情報などを含まない最低限の情報のやり取りしか行わないこと、またその情報も暗号化され、サービス提供側しか知らない復号鍵がないと戻せないことから、 「個人情報流出の心配はない」とのこと。

導入をためらう要因と補助の拡充、医療DX推進体制整備加算など

 医療機関が電子署名の導入をためらう要因として、電子カルテシステムなど既存システムの改修費用やカードリーダーの購入費用など、導入にかかる費用負担の重さが挙げられる。これまでも電子処方箋の基本機能部分の導入に対する社会保険診療報酬支払基金からの補助金はあったが、長嶋氏はさらに「2023年12月に実装したマイナンバーカードによる電子署名対応などの追加機能に対しても補助金が拡充された。これらの社会保険診療報酬支払基金からの補助金と都道府県からの助成金を併せて受給することで、導入費用に対する支援の割合は最大で病院が1/2、診療所が3/4となる」とし、また「医療DX推進体制整備加算が2024年6月に創設され、10月よりさらに増点される予定である。医療DX推進体制整備加算を算定する場合は、電子処方箋の運用を2025年3月末まで(経過措置)に開始している必要がある。電子署名ができないと電子処方箋が発行できないため、まずは電子署名の申請を行ってほしい」と語った。なお、電子処方箋のシステムを導入する前であっても電子署名の申請は可能である。
※追加機能:リフィル処方箋、口頭同意による重複投薬等チェック結果閲覧、マイナンバーカードによる電子署名対応、処方箋ID検索

今後の医療の展望

 最後に、今後の医療の展望について長嶋氏は、「これまで、医療機関や薬局間で薬剤情報が十分に共有されていないという問題点があった。電子処方箋が普及して網羅的なリアルタイム性のある薬剤情報が共有されることで、患者さんの医療の質の向上につながると期待している。薬剤情報によって医師や薬剤師の皆さんが患者さんの状況を把握して医療に生かせるとともに、重複していた薬剤を削減することで医療費の削減にもつながり、それを他の医療費や医療リソースに補填していくことができる」と期待を寄せ、「現状では電子署名は電子処方箋の発行時のみに用いられるが、今後の医療DX推進とともに必要となるケースは増えると考えられる」とまとめた。

(ケアネット 森)